建築・環境デザイン学科Department of Architecture and Environmental Design

湯治文化の重要性~肘折温泉街を通した湯治の魅力~
藤原大輝
宮城県出身
志村直愛ゼミ

 湯治とは温泉地に長期間(少なくとも一週間以上)滞留して特定の疾病の温泉療養を行う行為である。日帰りや数泊で疲労回復の目的や物見遊山的に行う温泉旅行とは、本来区別すべきである。一般的な温泉旅行とは違い、温泉が持つ効果効能を利用し、病気の治療を目的として、温泉地に長期滞在する。通常の湯治宿には自炊場があり、各自で自分の体調に合わせた食事を自炊しながら、長期滞在し療養・治療していた。もちろん、宿主が料理を出している所もあった(図1)。 現代は、温泉と言えば旅館から食事が提供され、2泊や3泊で行ける旅行だが、 湯治は、一定期間の間、休息を取りながら、毎日温泉に浸かり、体の調子を正常化することが目的である。近年、日本では湯治への認知度の低さが深刻化している。日本の湯治場の文化はわかっているところだけで既に1400 年前の奈良時代でさまざまな書物に記述がみられ、多くの人が利用していた。明治以降医学が発達しても、湯治文化はすぐに廃れることはなかったが二次大戦後、温泉地は画一的な歓楽地へと変貌、生活様式の大幅な変化により、文化としての側面が強い湯治は急速に廃れていった事が起因と思われる。今では20 代の半数が湯治をしらない(図2)とまで言われ始めている。今ある温泉旅館のほとんどが元湯治場で、そして湯治場として運営するには困難な世の中になってしまっているこの状況下で、私は温泉施設の原型である湯治場に興味を持つようになった。調べていく内に、こういった文化がこのまま風化していくことが惜しいと思うようになり、風化を防ぐための方法を考察した結果「温泉旅館にはない利点」についてまとめ、湯治文化と湯治場の保全を図ろうという考えに至った。今回の研究では「温泉旅館には無い湯治ならではの魅力、需要を調査し、それらを認知させる為の考察と提案」を行うことにした。その調査において、山形県内では数多くの温泉地が風化している事が分かったと同時に、その環境下においてなお人気を保ち続けている湯治場「肘折温泉」へ、その人気の秘訣と現代の湯治場のあり方についての現地調査を行うことにした。

図1.湯治料理(ゑびす屋)

図2. 湯治の認知度(出典:東京ガス)