映像学科Department of Film and Media

[最優秀賞]
川崎たろう/五十嵐桃佳/小山和生|ドーナツ・ホール
林海象・中村高寛ゼミ
劇映画・ドキュメンタリー

大学生三年生の奈緒は心の中にある「埋まらない穴」に悩んでいた。それなりに楽しい生活を送っていると自覚しながらも、奈緒は周りの友達や生徒と関わりながら気付けば言葉で表すことのできない気持ちに頭を支配されていくのであった。「心の穴」をモチーフにした、人間誰もが抱える「埋まらない何か」について探求する劇映画。


中村 高寛 准教授 評
本作は卒業制作の課題作品ではない。拙いながらも、2020年度に作られた日本のインディペンデント映画の一本である。いまある日常の断片を積み重ねて、登場人物たちの心の機微を丁寧に描写していく。セリフ一つとっても、才能を感じずにはいられないほど、小山和生の脚本は、すでに「作品」になっていた。しかし、これをどう映像化するのか?あの林海象教授ですら頭を抱えていた。私も同様に思案し、いくつかの提案をしたが、監督の川崎たろうはそれを突っぱねて、自身の演出を貫いた。そして製作の五十嵐桃佳こそ、本作のMVPである。優れた脚本があっても、それを具現化できなければ映画にはならない。製作全般を仕切るだけでなく、カチンコまで叩いて現場を動きまわっていた。新型コロナ禍の最中、撮影自体に制約がありながらも、それを全く感じさせない豊かな画面になったのは特筆すべきでことだ。まさにこの三人でなければ生まれなかった「映画」である。