DEPARTMENT OF INFORMATIQUE: VISUAL COMMUNICATION DESIGN | GRAPHIC DESIGN|グラフィックデザインコース

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グラフィックデザインコース

学生×教授対談 中敦郎(4年)×田中康博 准教授

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中さんはタイポグラフィー(刷文字を使ったグラフィック・デザイン)に対して研究を続けてきたようですが?
そうですね。昆虫が好きで、前から昆虫をモチーフにした作品を作っていたのですが、タイポグラフィーは卒業制作を始めた夏休み明けから作りました。
田中
グラフィックデザインは、ファインアート(純粋芸術)と違って社会との結びつきの中から生まれてきます。そのグラフィックデザインの中にタイポグラフィーがあって、タイプフェイス(書体)を作っていくのではなくて、情報を伝達する文字として、ポスター、エディトリアル(※印刷物など、編集されたもの)などに使われます。その上で作者の思い描く世界が作られるわけですよね。
中君の作品はカタカナを使っていますね? カタカナは、ただ音を表してるけれど、そこに昆虫のデザインを組み込むことで、昆虫の持ってる世界観やメカニカルな感じを中君はすごく反映させています。だからタイプフェイスのデザインは、文字として伝えるだけではなく、テキスト全体でかもし出してくるイメージもあります。
世の中の、欧文などいろいろな種類のイメージ上に、中君は、今まで趣味で続けていた昆虫という素材をイメージとして落とし込んだ訳だけれど、他の学生も、この4年間興味を持ち続けてきた分野で生まれた自分なりの色が、「社会にどのような働きかけが出来るのかな?」と考えながら、卒業制作に取り組んでいます。
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作品はカタカナですが、ひらがなは中さんのイメージとは違うのですか?
漢字のエレメント(漢字を構成する基本的な要素)のカクカクしたイメージが割と多く残っているもの、昆虫も有機的な面を持ちながら、一方で外骨格という直線的イメージもあるところに、カタカナ的な印象を持っていました。
田中
ひらがなは筆の連続した動きを基にしているのに対して、漢字のエレメントを基にしているのがカタカナ。そうした同じ言葉でもルーツが違ってきます。中君は、昆虫を基にカタカナと合致させた。今後の展開としてはカタカナ以外もあると思うけど、ただカタカナというわけでなく「そこに社会的なつながりがあるんだよ」ということ、つまり感覚だけでなく、それを導き出したそれなりの理由、根拠があることがグラフィックデザインじゃないかなと思います。
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課題ありきというより、クライアントありきのグラフィックということですね。
確かに商業的な面もありますね。
田中
クライアントを想定して作るのもあってもいいし、一方でこの作品のように実験的な作品もあってもいい。商業的な制約をはずして考え、それを商業的なものや学問的に落とし込む方向もある。ただグラフィックデザインである以上、必ず目的と意識、対象があります。一概に読みやすい、使いやすいフォントがいいわけではなく、例えばこの中君の作品にしても、このフォントを使った新聞は読みにくいが、昆虫図鑑の表紙に使われたらこれほどいいフォントはないわけです。要は使われる目的と意識があるかどうかだと思います。
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今回のグラフィックの4年生全体の作品について
田中
比率としては実験的なものが多くなってきています。というのは、グラフィックの領域が多様なメディアが増えたことで広くなってきて、これまでは印刷という媒体が主だったのに対し、今はそれに限らないグラフィックデザインが増えて、他の領域との境目があいまいになっていきます。それは時代によって変わっていくものだと思います。ちなみに中君の作品は、個性が出ている点では実験的な作品だけど、結構オーソッドックスな作品かな(笑)。
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デザイナーとして第一線で働くことは、時代を「変えていく立場」になるのでしょうか?
田中
グラフィックデザインは、要はコミュニケーションのひとつです。通信手段の変化で、今まで大衆に影響を与えていたものから、パーソナルな一対一のやり取りになりつつある。だから、趣味性の高いものを研ぎ澄まして提供するようなものの存在意味が昔よりもはるかに強くなってきている。タイプフェイスにしても以前は使いやすく読みやすくが主流だったけど、今は使い方や用途に合わせて、いろいろなタイプフェイスが求められてきていると個人的には思います。
昔は活字だったからタイプフェイスもそれほど多く作れなかったようですけど・・・。
田中
コンピューターがコミュニケーションの手段として入ってきたころから、タイプフェイスは増えてきましたね。今のオーソドックスなタイプフェイスは、昔の文字を彫った手癖とかからデザインエレメントが継承されている。昔と違って印刷技術に縛られることもなくてこれだけ足かせが取れてきているのだから、自由な発想でグラフィックデザインの領域にチャレンジして欲しいと思っています。
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卒展にはどういった作品のバリエーションがあるのですか?
田中
今年はわりと立体系が多いです。展示形式が立体的と言ったほうがいいのかな?展示のスペース全体を作品として展示しようという感じが多く出てる。
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グラフィックの「領域」にお二人はどういう魅力を感じますか?
田中
僕の考えとしては、グラフィックデザインの中でいかに自分を表現していくかが面白いんだと思います。例えば印刷のとき2色しか使えないものもある、でも2色しか使えないからって質が悪くなるわけではない訳で、2色で作ってもたくさんの色を使ったポスターに勝るものもあります。制限をうまく利用していい作品を作っていこうとする過程に苦しさと同時に面白さがあるのだと思います。
伝達やコミュニケーションの手段と考えています。他者を対象とした伝達、例えば、小学生のとき自分の描いた絵を友達に見せたときの反応、そういったのが楽しくて惹かれているのだと思います。
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4年間を振り返ってご自身が変わったところはありますか?
最初にラベルを作ったとき、いろいろな書体があってそれがすべて同じに見えていたのですが、その文字の味というか、特徴というかそういったものの違いがわかるようになってきました。
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周りの同じ4年生にも変化を感じるようなことはありますか?
同じテーマの課題でも、途中の作業や講評で、自分の予想しなかったものが他の人から出てくると驚きました。皆そういうふうにしてお互いに影響を受けてきていると感じます。
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みなさんの取り組み方というのは?
田中
イラストレーションを描きたくて、それをポスターというメディアで表現する人もいれば、ポスターを作りたくて、その表現としてイラストレーションを使う人もいます。同じことでも取り組み方がかなり違ってきます。 みんな試行錯誤しながら作っていますよ(笑)。構想を具体的に落しこんでみて初めてわかることがある、今はそういう時期かな。実際にやってみて悩んでいる感じかな。どう?
実際に作ってフォントを並べたとき、一つの文字に集中して目が行ってしまうようになって変な感じになっていたり、やりたいことが思ったより時間がかかったりしていますね。
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中さんは大学院へ進学されるとのことですが。
卒業制作で改めて取り組みながら内容の奥の深さに気がつきました。昆虫をモチーフにどうやって人に伝えていくのかという技術を突き詰めて行きたいと考えています。
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グラフィックを仕事にするというのは、どのようなものなのでしょう?
田中
それは人によりますね。普通なら同時に3〜4つぐらいの仕事を同時にこなしていくことになると思います。一つ終わって次に、ということではなくいくつかのクライアントの仕事を掛け持ちしていくことになる。作家的な仕事をしている人とはそこがちょっと違うかもしれない。1年も仕事すればある程度できるようになる。そして、これはこのぐらいの仕事量だなと見積もりをつけられるようになるのは3年ぐらい必要。最初のうちはそれがわからないから、精神的にプレッシャーを感じるのかもしれないですね。そのプレッシャーが感じなくなれば一人前ということです。
田中
タイプフェイスの場合、実際に文字として使われるようになってゴールな訳ですね。
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