改めて気付いた地元・気仙沼の魅力 人との縁を大切に、前へ進んでいく /コミュニティデザイナー・卒業生 小野寺真希

インタビュー 2020.02.19|

大学4年生だった3年前から、地元・宮城県気仙沼市の地域おこし協力隊として活動している小野寺真希(おのでら・まき)さん。運営に携わっている市民の交流の場「□ship(スクエアシップ)」を訪ね、現在のお仕事ぶりについてお話をお聞きしました。

震災をきっかけに考え始めた、地域に関わるということ

――小野寺さんの現在の活動内容を教えていただけますか?

気仙沼市の地域おこし協力隊として、「気仙沼まち大学」という市の事業に携わっています。そのなかでも主に、会員制のシェアスペースである、ここ□ship(以下、スクエアシップと表記)の運営を担当していて、スクエアシップで行われるイベントの運営やコミュニティづくりを行っています。スクエアシップ内には移住センターの窓口もあって、気仙沼に移住したいという相談に訪れる方も結構います。

あと、コミュニティデザインの会社「moyai(もやい)」を仲間3人で立ち上げて、気仙沼市内をメインに活動中です。個人でワークショップやグラフィックデザインの仕事もしています。

スクエアシップが入る2019年3月に竣工したばかりの「気仙沼市まち・ひと・しごと交流プラザ」。建物手前のコンクリート壁は実は防潮堤で、海と街とを緩やかに繋いでいる。

――地域おこし協力隊になろうというのは、いつ頃から考えていたんですか?

私は大学4年生から協力隊の活動を始めて、今年で3年目になります。コミュニティデザインを学ぶなかで、やっぱり地域に関わる仕事がしたい、直接人と関われる仕事がしたいと考えるようになりました。そして、ちょうど就職活動を始めるタイミングで協力隊員募集を知って、在学中に隊員の活動を始めました。将来的には地元の気仙沼に帰ってきて仕事がしたいと考えていましたが、タイミングが早まった感じですね(笑)

――コミュニティデザイン学科に入学したきっかけには、震災の体験があったのでしょうか?

そうですね。震災当時、私は中学3年生でした。家が被災して、親戚の家で暮らすことになって。やることがなくて、ずっと漫画を読んだりしていました。避難所で暮らす友人は、避難所での役割を担ったりしていましたが、私は何もしていなくて。

高校に入学後も、1、2年生までは、普通に勉強して、部活動をして過ごしていました。その頃もまだ、学校の校庭に自衛隊の方たちがいたり、ボランティアの方たちが出入りしていたりして、私に何かできることはないだろうかっていうモヤモヤした気持ちを抱えていたのを覚えています。

高校3年生になって、友人の立ち上げたまちづくり団体に参加しました。高校生の私たちにも何かできるんじゃないか、気仙沼の魅力を知ってもらうことで、観光業を盛り立てようって、いろいろ活動しました。このことがきっかけで、まちづくりやワークショップに興味を持つようになって、芸工大にコミュニティデザイン学科ができることも知ったんです。

――実際にコニュニティデザイン学科で学んでみてどうでしたか?

架空の課題ではなくて、実際に目の前で起こっている、人口減少や少子高齢化などの地域課題を、地域の人たちと一緒に考えられたっていうのは、コミュニティデザイン学科だからこそできた経験だと思います。

地域での活動ももちろんですが、オープンキャンパスや卒業制作展での会場づくりなど、ゼロから自分たちで考えて作り上げた経験は、全て今の仕事に活きていると思います。コミュニティデザインの仕事をするにあたっては、コミュニティデザインの手法自体を知らない人も多いので、こちらから「こういうことをやりませんか」と提案して、まずは知ってもらうためのいろんな工夫から始まります。こうしたことは大学時代にやっていたことと似ていると思いますね。

――お仕事を始めて、特に印象に残っているエピソードはどんなことでしょう?

これまでにお世話になった方々と一緒に仕事する機会が多いのがすごくうれしいです。最近、ある団体の報告書をデザインさせてもらったのですが、それが巡り巡って、在学中に実習でお世話になった栃木の方の元に届いて。「うちでもこういうのを作りたいって見せてくれたお客さんがいたよ」って連絡をくれたんです。大学生の頃に出会った地域の方々とも仕事をする機会が多くて、その度に、人のつながりを活かして仕事ができることはとても幸せだなと思いますね。

小野寺さんがデザインを手がけたNPO法人の活動報告書。気仙沼はデザイナーが少ないとのことで、小野寺さんはグラフィックデザインの仕事も担っている。

――お仕事で一番求められることは何ですか?

コミュニティデザインの仕事は、何か解決したい課題があった時に、最初にある程度その解決策を想定するんですが、地域の方たちから出された意見を活かすことが多いので、実際にはそのとおりに進まないことがほとんどです。
臨機応変っていうか、人を見て「何ができるだろう?」って考える力が求められるように思いますね。型がないなかでどうやっていくか、みたいな。

人に、街に、恩返しがしたい

――気仙沼での活動のゴールが10点だとすると、活動3年目の今、どのくらいのポジションにいるのでしょう?

3点とか…。気仙沼に住んでいる人たちが、ここでやりたいことを形にできる状態が、私のなかのゴールなんです。
moyaiで行っているプロジェクトのひとつ「みちくさプロジェクト」では、「まちの中で何かやりたい」「このスキルを何かに活かしたい」という人に声かけて集まってもらっています。気仙沼の商店街は、震災の被害もあって、店舗が歯抜けになっていたり、店舗に使われていないスペースがあったりします。こうしたスペースを利用して、まちの中で楽しいことをやろうというプロジェクトです。商店街でのプロジェクトがきっかけで、気仙沼駅前でも開催するようになりました。少しずつですが、活動を広げられているように思います。

ここスクエアシップも、気仙沼でチャレンジできる人を増やしたいという想いのもと運営されていて、年々利用者も増えています。当初は私たちが主催してイベントやワークショップを行うことが多かったんですが、最近では、例えばコーヒーを勉強するイベントが開催されたり、子育てのことを話し合う場づくりをしていたりと、利用される人たちが自分たちで考えて何かを始めるようになってきていて。少しずつ広がりを実感しています。だから3点(笑)

――小野寺さんのお仕事の原動力になっているものは何でしょう?

今は恩返しをしたいという気持ちが大きいです。気仙沼にも、お世話になった人たちにも、自分が頑張ることで恩返しができるかなって。仕事をするにあたって、これまでのご縁というか、人とのつながりに頼ることもありますし、仕事をするなかで、新たなつながりができることもあります。うまく言えないですけど、その度に「お世話になった分、頑張ろう」って思うんです。人にも、まちに対しても。

震災と高校生の時の活動がきっかけで、すごく気仙沼のことが好きになりました。自分のやりたいことに挑戦している人、応援してくれる人。地元の人、移住してきた人。気仙沼には、お互いを応援し合う空気感みたいなものがあるんです。それに触れると、やっぱり気仙沼いいなって思いますね。

――最後に後輩や受験生にメッセージを

いろんなことに好奇心を持つことはすごく大事だと思います。高校生の頃は、アートやデザインに全然興味がなくって。でも、まちづくりをきっかけに芸工大に入学して、アートやデザインを学んだことが、今すごく仕事に活きているんです。だから、やりたいことはもちろん、他のことにも目を向けてほしい。自分のやりたいことにも必ず活かせる気がします。大学で過ごした4年間で、たくさんのことを得られたと思いますし、高校生の頃にもっと好奇心を持てていたらもっと良かったのかなと思います。

芸工大には、学生同士だったり、地域の方たちだったり、本当にたくさんの人との関わりがあります。こうした関わりから、たくさんのことを得られるはず。多くの高校生に芸工大をおすすめしたい理由のひとつです。

コミュニティデザイン学科の学びで培った、人と人とを結ぶ力を存分に活かしている小野寺さん。その謙虚な姿勢と前向きさが、人を惹きつけ、新しいつながりを生んでいるように感じました。
(撮影:三浦晴子 取材:渡辺志織、企画広報課・須貝)

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東北芸術工科大学 広報担当
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