2019.11.13インタビュー

好奇心が道を開き、仕事をつくる/山形県工業技術センター 月本久美子

月本久美子(つきもと・くみこ)さんは、2001年に情報デザイン学科・映像コース(現・映像学科)を卒業した6期生です。同年、山形県工業技術センターに就職、現在はデザイン部門の中核を担い、県内企業をデザイン面から支援しています。このお仕事を選んだ理由や、これまでの取り組みについてお話をお聞きしました。

――情報デザイン学科・映像コースを選んだ理由は?

月本:もともと工業意匠やデザインが気になっていて、関東方面に行くことも考えたのですが、山形に新しく芸工大ができて、まだ何色にも染まっていないというところに興味を持ちました。美大の入試対策はできていませんでしたが、情報デザイン学科は論述で受けることができたんですよね。真っ白な紙と砂時計を渡されて「これについて論述せよ」なんて、戸惑いましたが(笑)

(撮影:大沼洋美)

1~2年生のころは、情報デザイン学科のいろいろな分野を体験するカリキュラムでした。そのなかで、一番興味を持ったというか、人間味を感じたのが映像コースだったんです。卒業制作では光の三原色とモアレに関する作品を制作しました。同級生は作家志向の強い人が多かったのですが、私はそうではないなと。漠然とですが、人の役に立つことをしたいと考えていました。就職課(現・キャリアセンター)に通っていたところ、たまたま山形県で「工業デザイン職」の募集があることを教えてもらったんです。高校時代に意匠デザインに興味を持っていたことと、つながる仕事ですね。

――東北芸工大の卒業生としては初めて工業技術センターに入庁。入庁からこれまでの道のりはどんなものでしたか?

月本:最初は工業技術センターのなかでも、米沢にある置賜試験場で、米沢織のデザインを担当しました。私が入った年に退職してしまう方と一緒に。とにかくたくさんの機屋さんを回って現場を見せてもらいましたね。織物は完全な分業制で、織るところだけでは成り立たないことも知りました。他にはないオリジナルのものを作るには、素材開発も必要ということで、和紙(楮)と紅花を使った特殊な糸の開発にも携わり、高分子が専門の先輩職員に協力してもらって、特許をとる経験もさせてもらいました。

2008年からは山形に移り、今度はデザイン(主に鋳物)の人が上司になったのですが、その方もその年で退職され、また一人に。企画調整部というのは色んな部から集まって来るので、上司も次々に代わったのですが、そのたびにデザインの仕事を知ってもらうようにしていましたね。

同時に、山形エクセレントデザインの事業では、それこそ県内の様々な企業と関わるので、機械や金属、電気等、こちらが分からない業界のことを教えてもらうことができました。私は2010年の夏から産休に入ったのですが、休んでいる間に、パナソニックを経て入庁した芸工大の同級生、大場智博(おおば・ともひろ)さんが、仲間に加わりました。

東京ビッグサイトで開催された見本市に、山形エクセレントデザイン関連企業が合同出展。「やまがたのデザイン」ブースは多くのバイヤーから注目を集めた。

――卒業生の仲間を得て作った絵年表「山の向こうのデザイン物語」は、どのようにして生まれたのですか?

月本: 2014年開催の山形エクセレントデザイン展に併せて制作したこの絵年表は、山形のものづくりとデザインのつながりを時系列でまとめたものです。そもそものきっかけは、「どうして山形に芸工大が出来たんだろう?」という疑問から始まったのですが、調べていくうちに、どんどん面白くなって、結局1,300年くらいまで遡ぼりました(笑)

絵年表「山の向こうのデザイン物語」 ※大きなサイズはこちら

ちょうど大場さんと一緒にエクセレントデザインのあり方を見直していて、一般の方への訴求の仕方を考えていました。今ある産業がどのようににつながってきたものなのかが分かると、県内のものづくりにもっと愛着を持ってもらえるのではないかと思ったんです。大学時代にデザイン史を教わった早坂功(はやさか・いさお)先生を訪ね、芸工大の設立にまつわる様々な話をお聞きしたこともよく憶えています。

※1:本学名誉教授。専門はデザイン史。1992~2010年の18年間、プロダクトデザイン学科で教鞭を執る。

――これまでに関わったお仕事のなかで、特に印象に残っているものについて教えてください

月本:山形市内に、生花を特殊な方法で乾燥させてガラスに閉じ込めるボトルフラワーという商品を作っている会社があります。これまでずっと問屋からの受注でものづくりをしてきたけれど、それだけでは将来不安だ、何か始めなきゃいけないけれど、何をしたら良いか?という相談でした。デザイン活用の効果を知っていただくために、ターゲット設定からアイデア出し、試作、販売計画を一緒に進める形で開発をした最初の事例です。2013年に発売されましたが、それが今も継続して売れているのはうれしいですね。

草花をそのままガラス管に閉じ込めたボトルフラワー。株式会社サンカ(山形市)が製造。

2015年からは「やまがたおみやげ菓子開発プロジェクト」をスタートさせました。県内の菓子製造業者とアドバイザー、デザイナー、工業技術センターで、山形らしいおみやげ菓子の開発に取り組みました。お菓子屋さんの開発スタンスが、ものづくり企業とは全く違ったので最初は戸惑ったのですが、何度も足を運んで話し合い、最終的にはお互い納得する形で新しい商品を生み出せたのは良い経験になりました。

看板商品の乃し梅の原料である、県産完熟梅の可能性を広げる「乃し梅のシロップ」 ――佐藤屋(山形市)
山形の紅花と菊の花びらが入った「花べっこう飴」 ――有限会社大山製菓(山形市)

上記のどちらも、既存の商品にデザインで新たな付加価値を加えた好例だ。

――山形のデザインの仕事における女性の役割をどのように考えますか?

月本:デザイナーと企業のマッチング交流会「デザ縁」でも、女性デザイナーはまだ少ないのですが、先ほどのお土産菓子や生活雑貨の分野では特に、購入者は女性が多いので、女性の感性を求められることは多いと思います。後輩たちには、「どんな仕事にも女性が力を発揮できる場がある。新しいことを始める力になれる」ことを伝えたいですね。

――最後に、芸工大と今後の山形のデザイン界に対する思いを教えてください

月本:芸工大のような大学が山形にあって、卒業生が全国各地で活躍している意義はとても大きいと思います。でも、私自身はまだ道半ばという感じ。変えたいと思っていることが、変えられずにいるんです。例えば、部署を超えた交流をもっと促進したい。デザインには、縦割り社会に横串を通す力があると思っています。

山形県内のものづくりに、デザインの視点が加わり、近年、商品力の高い商品やサービスが生まれていることの背景には、山形エクセレントデザインの取り組みをはじめとする、月本さんら卒業生たちの奮闘があります。また、月本さんの様々なことに好奇心を持ち、前向きであり続ける姿勢も、お仕事の一つひとつに還元されているように感じました。
東北芸工大と山形県工業技術センターは、これからも良きパートナーとして、山形のデザインを支えていきます。

(取材:地域連携推進課 遠藤)

山形県工業技術センター
山形県工業技術センターでは、県のデザイン振興指針に基づき、県内企業をデザインの面からサポートしています。デザイン支援を行う企画調整部・連携支援室には、月本さんのほか、東北芸工大の卒業生が2名在籍しています。

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東北芸術工科大学 企画広報課
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