子どもたちを育む全ての環境を大事にしたい/こども芸術大学 認定こども園 浅野はるな

インタビュー 2019.12.05|

東北芸術工科大学大学の敷地内にある「こども芸術大学」は、2005年4月に「母なる大地の回復」を教育・保育理念に、3歳から小学校入学までの子どもと母親を対象にした「通学型」の教育機関として開園しました。2017年4月からは、幼保連携型認定こども園として開園。現在、1歳から5歳までの子どもたちが通っています。

「感じる心」「感じ合う心」「つながりあう心」を教育・保育目標に掲げ、子どもたちの創造活動と成長をサポートする保育教諭たち。その活動をについて、主幹保育教諭の浅野はるな(あさの・はるな)さんにインタビューしました。

知らない世界を知りたい

――幼児教育に興味をもったきっかけは?

高校時代の進路選択の時期に偶然、テレビで司馬遼太郎さんの著書『二十一世紀に生きる君たちへ』(出版社: 世界文化社)を紹介していて、その本の一説にある「君たちは未来を持っているんだ」という言葉を目にしたことが、一つのきっかけだったように思います。

――こども芸術大学の活動とリンクする言葉ですね

そうですね。その後、本を読んでみると、「人に優しく、自分には厳しく。ちゃんとした自己を確立しなさい」「いたわりの気持ちを持ちなさい」「文明の手綱をしっかり握ってコントロールしなくちゃいけない」というような内容が書いてありました。小・中学生のころから子どもが好きだったのですが、その本が子どもに対して投げかけているそうした言葉に「新たな側面」を感じて、ハッとしたのを覚えています。

あと、その時まであまり意識していなかったのですが、「知らない世界を知りたい」という衝動が私にはあるからなのかもしれません。

大学時代に、「レッジョ・エミリア教育」というイタリア発祥で世界的に有名な幼児教育方法や、美術や音楽の専門家が子どもたちの考えを絵にして創作活動をサポートする「アトリエスタ」という仕事を知りました。そこでも、「インプロビゼーション」(即興)で、子どもと対等に創作活動をする面白さを学びました。

子どもたちへの思い

――「こどもこそ未来」「母なる大地の回復」という理念には、どんな思いがありますか?

こども芸術大学は、子どもたちだけではなく、お母さんたちも共に感じ、学ぶ機関を目指して2005年4月に開園しました。「こどもこそ未来」は、その時から掲げられているスローガンです。これからの社会を担う子どもたちにどんな大人になってほしいのかを、ご家族と一緒に、私たち職員も考えながら活動することを意味しています。

入職してから8年間の活動を振り返ってみると「母なる大地の回復」は、お母さんやご家族はもちろん、「子どもたちを支える全ての環境を大事にする活動」のことなのだなと感じています。

こども芸術大学に掲げられている「こどもこそ未来」という言葉

――ここは芸術大学の敷地内ですが、子どもたちにとってどんな環境ですか?

1~2歳の時期は、先生やお家の人など出会う人は限られていますが、学生たちや教職員のみなさんなど、自分たち以外の多様な世代に自然に触れて、その存在を感じることができます。子どもたちに媚びない人たちもたくさんいるので(笑)、子どもたちが「自分以外の他者」を想像できる良い環境です。

大切なのは、正解がないなかから「自分の感覚」を見つけること

――日々の活動で、「気持ち」を大切にされていますね

そうですね。教育・保育目標の「感じる心」、「感じ合う心」、「つながりあう心」を実践するには、他者を思いやる想像力が、子どもたちにとって大切なステップになるからです。でも、その想像力を得られるチャンスは、自分の感覚に気づいたその先にあるので、子どもたちにはまず、自分の感覚をつかんでもらうように背中を押します。

例えば、絵の具や粘土遊びをしているうちに、グニュグニュした手触りが「気持ちいい」という子と、「気持ち悪い」という子が出てきますが、子どもたちが自分で得たそれぞれの感覚を「そう思っていいんだよ」と認めてあげることなどです。

絵の具を「グニュグニュ」中の子どもたち

そうした活動を繰りかえして自分の感覚をつかんで、子どもたちに主体性が出てきたら、次に「これをするとこれが実現する」という、ものごとを生み出すプロセスを学んでいきます。そのうち、少し職員がサポートするだけで、どんどんアイデアを実現できるようになります。子どもたちのアクションはこちらの想定を超えてくるので、向き合っていてとても面白いです。

海賊ごっこに必要な物を子どもたちに浅野先生が質問しているところ。船がいるね、帽子もいるねと、海賊ごっこに必要な物を子どもと話し合いながら引き出していく。(こども芸術大学「ぼくわたしの時間」)

子どもたちの興味からスタートすることを大切に

――スタッフのみなさんが心仕掛けていることはありますか?

はい。「子どもたちの興味」と「職員の願い」のバランスを考えながらプログラムを作っています。その活動が終わった時に子どもたちから「こういう言葉」が出るといいなとか、「こういう顔」になってたらいいななど、子どもたちに何をキャッチして欲しいのかをイメージしながら活動内容を作ります。

技術の習得や仲間との協調など、活動に応じて教育的なねらいがありますが、発達段階に応じて、どうやったら楽しく活動に取り組めるかをこどもたちの興味から引き出してきます。

発達段階に応じたスキルを子どもたちが楽しく習得する「みんなの時間」。ハサミの使い方や、紙を丸く切るコツを掴むという技術的な目的を、季節に合わせ、子どもたちの実感をもとに取り組める題材で行う。

多様な側面や成長を、もっと言葉で伝えたい

――子どもたちの成長の姿を、ご家族の方々はどのように受け止めておられますか?

お家の方にも子どもたちの遊びに入ってきてもらう「どんぐりタイム」という時間があるので、ここで芽生えた子どもたちの興味関心や自主性に気が付いてくださっていると思いますし、ただ遊んでいるように見えていろんなことを感じているんだなということも伝えられているように思います。

子どもたちが身の回りのことに興味を持って、観察している様子

日々忙しく働くお家の方々の子どもとの向き合い方はそれぞれですが、ここでの時間で子どもと一緒に遊ぶ時間を持つことは、自分の子どものことを知る第一歩になっていると思いますので、私たちが日々感じている子どもたちの多様な側面や成長をしっかり言葉にして、お家の人たちに伝えていきたいと思っています。

こども芸術大学の周りには、いつもの帰りの時間になると何組かの親子が遊んでいる風景があります。お家に帰る前に、こどもと向き合うひと時。さまざまな家族同士が入り混じりながら楽しんでいるその風景からも、こども芸術大学が大切にしている「つながりあう心」を感じました。
(取材:企画広報課 樋口)

東北芸術工科大学 こども芸術大学認定こども園
こども芸術大学は2005年4月に「母なる大地の回復」を教育・保育理念に、3歳から小学校入学までの子どもと母親を対象に通学型の教育機関として開学。2017年4月より幼稚園と保育園の機能を併せ持つ、認定こども園としてさらなる歩みを進めています。

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東北芸術工科大学 広報担当
東北芸術工科大学 広報担当

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