サスティナブル、フェアトレード、オーガニックがつくる新しい「循環」のかたち/クリエイティブディレクター 岩井天志

インタビュー

本学に2007年に着任され、現在、デザイン工学部映像学科で映像やアニメーション制作を教えているクリエイティブディレクターの岩井天志教授は、これまで東京と山形を往復しながら、アートイベントのディレクションをされてきました。
様々なディレクションを手掛けながら過ごされた30年間の東京生活を離れて、今年から山形に移住。食や農とアートや音楽をつなげるオーガニックフェスをプランニングされています。

自然に近い場所で人と深く向き合うこと

――東京ではどんなお仕事を?

岩井:大学を卒業してからはCMやミュージックビデオのディレクションを中心に仕事をしていたのですが、震災が起こってからガラッと意識が変わりました。企業や商品のために時間と労力を費やすのではなく、人と人が顔をあわせて、より深く繋がれる場をつくりたいと思うようになりました。

それから、音楽やアートのイベントを企画してツアーをおこなったり、西麻布にあったオフィスを改装して「Shimauma」というサロンをつくって仲間が集まる場として解放したり。アーティストの発表やライブ、ワークショップなど様々な形で5年間運営しました。特に「Shimauma night」という不定期のイベントは、様々な国籍のクリエイターが集まるインターナショナルな場になりました。

西麻布のサロン「Shimauma」での「Shimauma night」開催風景
国内外で活躍しているタップダンサーの熊谷和徳さんと、音楽家の高木正勝さんの「熊谷和徳×高木正勝」ライブ風景(東京/京都)

――その盛り上がりから一転し、山形で暮らすことになった理由は?

岩井:首都高と六本木通りが目の前にある環境が窮屈になってきたということもありますが、これからはもっと自然に近い場所でみんなが集まれる場づくりをしたいという思いが強くなってきました。食や環境への意識が高まったことも大きな理由です。

東京では「farm to table(農家さんからダイレクトに野菜が届く)」の食のイベントが様々なところで行われるようになりましたが、これからは「table to farm(農園の中にテーブルを持って来て食べる)」じゃないかと思っています。輸送のコストや鮮度の問題もありますが、野菜が育った畑やつくった人のところに足を運び一緒に食べることが本来の姿なのではと思って。アウトドアのオーガニックフェスはその当たり前のことを大勢で共有することかなぁと思っています。

食と環境をアートや音楽で繋ぐ

――山形に移住されて何か変化は?

岩井:山形との繋がりは既にあったので心配はなかったのですが、まずは東京オリンピックの前に移住できてよかったです(笑)物質面でも精神面でもシンプルになり気持ちよく生活できています。

一番嬉しいのは美味しい野菜をつくっている若い農家さんや、この地でグラスルーツ的に活動している方たちと、一人また一人とリアルに繋がっていっていることです。

――今、取り掛かられていることは?

岩井:食や健康、環境問題など一人一人がシフトしていかないといけない状況が山積みになっていて、何から手をつけていったらいいのやらという状態ですが、まずは一歩ずつやっていくことかなあと思っています。

自分の身体に入れるものからと思い、地球や体に不可をかけない自然農に近いかたちで、野菜をつくっている山形の農家さんたちを訪ねて、インタビューしながらいろいろお話を伺っています。

自分ができることは、自分が信じられる活動をされている方たちと繋がり、そのコミュニティを広げていくことなので、食や環境だけでなく、今まで東京でつくってきたアートや音楽のコミュニティとも繋げることでより魅力的なうねりになっていけばと考えています。

『土と人 2018』での音楽家の高木正勝さんの演奏風景

昨年は栃木県の益子で「土と人2018  音と食」と題して、音楽家の高木正勝さんとヴィーガンシェフのベティナ・ボルディさんのイベントを開催しました。現在は、来年の山形ビエンナーレの準備がスタートするので、ビエンナーレではそのコミュニティがさらに広がる場にしたいと思っています。

『土と人 2018』ロンドンから初来日のヴィーガン・シェフ、ベティナ・ボルディによるオーガニック料理のイベントを、益子の「pejite」を会場に行う。 photo by Ooki Jingu

日々の様々な「循環」を感じるフェス

――オーガニックイベントを12月に開催されますね

岩井:東北芸術工科大学の学食をオーガニック学食にするのが目標でして(笑)一日だけでも実現できないかと、「循環」をテーマに、「土と人」というオーガニックフェスを企画しました。厳密にいえばオーガニック認証を受けていないものもありますが、フェアトレードや減農薬など志を持って活動されている方達がお店を開いてくれます。

土と人2019「循環」の出店者、有機農家「畝々小農家」の魚路 優さん。山形県大江町で、農薬と化学肥料を使用せず、年間100種類ほどの野菜を栽培している。作った作物は、旦那さんの移動食糧品店「ノウマド」で販売。

今回は「循環」をテーマにしたのですが、この言葉にはいろんな意味を込めています。土に種がまかれ野菜になり人の口に入り、体の中を循環するという意味、つくっている人に対して感謝する思いの循環。そしてC to C(作り手からダイレクトにものを買う)という経済の循環。そうした様々な小さな輪の循環が、この場でたくさん生まれるといいなと思っています。

種から野菜が育ち、育った野菜が人の身体に入り、人が土に還り、その土でまた種が育つ循環をイメージした、土と人2019「循環」のフライヤーデザイン

――トークのゲストも魅力的な方々が登壇されますね

岩井:このイベントを行う上でまず真っ先にゲストでお願いしようと思った方は稲葉俊郎(いなば・としろう)さんです。稲葉さんは東京大学医学部循環器内科のお医者さんですが、伝統芸能や、アート、音楽、民俗学、食、農などあらゆる分野を探求されていて、いま最も先端の考えを持っている方だと思っています。稲葉さんを中心に「いのちの循環」と題したトークを行っていただこうと考えています。

東大病院では、心臓を内科的に治療するカテーテル治療を行ったり、先天性心疾患の方を専門とする稲葉さん。未来の医療と社会の創発のため、伝統芸能、芸術、民俗学、農業など、あらゆる分野との接点を探る対話を積極的に行っている。

――15歳で種苗会社を立ちあげた高校生も参加されるのですね

岩井:小林 宙(こばやし・そら)さんという現役高校2年生です。伝承野菜を守ることを命題に全国を旅しながら種を集めていて、中学の時に会社を立ち上げました。先月「タネの未来」という本を出版し、全国から講演に呼ばれて引っ張りだこですが、このイベントに参加することを楽しみにしてくれています。芸工大の学生には是非聞きに来てもらいたいと思います。

地元山形からは山形の在来種米の「さわのはな」を自然農法でずっとつくられていて、お米や野菜を買いたい人が、信頼できる農家さんに出資して育ててもらうという「トラスト運動」を日本で最初に取り入れた高橋保廣(たかはし・やすひろ)さん(農家/山形県新庄市「ネットワーク農縁」「山形新庄大豆畑トラスト」代表)と、東京・池尻大橋にあった人気ベジタリアンごはん屋の「Umui」を閉めて山形に移住し、あらゆるイベントでケータリングや出店をしながら山形の胃袋を支え続けるスーパー料理人Umui Emikoさんにもお越しいただきます。

あとはヨーロッパツアーを前にテニスコーツの二人が駆けつけてくれてライブをします。彼らの音楽性と生き方は正にオーガニックで世界中にファンを持つ素晴らしいミュージシャンです。

テニスコーツ(写真左:さやさん/右:植野隆司さん)。国内外の様々なジャンルのミュージシャンやアーティストとコラボレーションを行っている。

――みなさんそれぞれが繋がりを感じますね

岩井:1Fは実際に食べられるブースが出て、2FはYOGA、トーク、ライブイベントを行いますが、僕と思いを同じに感じている人たちが集まってくれます。食のブースはこちらに引っ越してきて初めてお会いした人たちがほとんどですが、インタビューをした方から紹介を受け、どんどん繋がっていきました。

オーガニックフェス『土と人 2019「循環」』のフライヤー裏面には、参加者に持参してほしいマイカップ、ソーサー、箸などの実寸大のイラストが描かれている。参加する場合には、こうした食器・カトラリーを持参するようにしたい。

山形はマルシェブームでたくさん開催されていますが、今回のようにコンセプトを掲げているものはそんなに無いので、テーマや趣旨を話すとみなさん2つ返事で参加を引き受けてくれました。今回は僕の方から参加をお願いするかたちでしたが、同じ志しの方がこれから少しずつ増えていくといいなと思っています。

物販、料理は全て植物性。ゴミの問題も考えるためにマイプレート、マイカップなどの器も持参で参加という徹底ぶり。購入者という単なる「点」での参加から、オーガニックフェスのなかで無数につくられる「輪」の中に自分がいることを意識してみる、そんな機会になりそうだ。

オーガニックフェス『土と人2019「循環」』は、2019年12月1日(日)に東北芸術工科大学で開催します。ぜひこの機会に足を運んでみてはいかがでしょうか。
(企画広報課・樋口)

岩井天志(いわい・てんし)

1971年生まれ。多摩美術大学卒業。アニメーションディレクター、映像ディレクターとしてCM、MVを制作。2011年よりアートイベントのディレクションやブランディングなどクリエイティブディレクションを行う。主な仕事に山形ビエンナーレキュレーター(2014、2016年)、VisionVillage(韓国)のアートディレクション、イベントディレクション(2014〜2017年)、熊谷和徳×高木正勝(東京・京都ライブツアー)プロデュースなど。2018年よりサスティナブル、オーガニック、フェアトレードのコミュニティづくり『土と人』をスタートする。

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東北芸術工科大学 広報担当
東北芸術工科大学 広報担当

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