作家支援・育成プログラム「TUAD ART-CONCEPT」がもたらす教育の価値と可能性/深井聡一郎 教授×青山ひろゆき 教授×川田英里佳(大学院絵画領域)
インタビュー
#卒業生#在学生#大学院#展覧会2026年2月、新宿髙島屋で開催された「TUAD ART-CONCEPT」。本企画は東北芸術工科大学がこれまで展開してきた卒業生支援の取り組みに、大学院教育を加える形で発展させた新たなプロジェクトであり挑戦の場です。そこで、担当教員である大学院芸術工学研究科長の深井聡一郎教授と、芸術学部長であり大学院芸術文化専攻長の青山ひろゆき教授、そして出展作家である大学院絵画領域2年生の川田英里佳さんの3名にインタビュー。この取り組みの背景と意義、そして実際に参加したからこそ見えてきたものを伺いました。
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ART-LINKSが10年かけて証明したことを次へつなぐ
――今年2月に新宿髙島屋でTUAD ART-CONCEPT 2026が開催されましたが、この取り組みの前身であるTUAD ART-LINKSからの流れを教えてください
会期:2026年2月11日(水・祝)~23日(月・祝) 会場:新宿髙島屋10階 美術画廊
深井:もともとは卒業生支援を目的としたTUAD ART WALKという展示が始まりだったと思います。銀座の貸し画廊を中心にギャラリー代をある程度安く割り引いてもらって展示を行う“半企画”の仕組みで、僕ら世代は卒業後はまず貸し画廊から始まるような時代でした。
青山:ただ、学生が今後歩んでいくにあたり“お金を払って展示するのが当たり前”になってしまうのはあまり良いことじゃないよね、って話になって。
深井:ちょうどその後くらいからインディペンデントスペースと呼ばれる若手支援型のギャラリーが出てき始めて、無料なんだけどキュレーションがかかる。要は「こういう作品をつくっています」と若手がプレゼンしに行くような時代に変わってきたんですね。
青山:日本はコマーシャルギャラリーが非常に少なかったので、上の世代の人たちはお金を払ってやるのが当たり前という感覚・価値観を持っていて、でも日本にコマーシャルギャラリーが増えてきたことを受けて僕ら世代が変化を加えはじめました。
深井:僕らが始めた当時はまだ10社ぐらいしかコマーシャルギャラリーがなかったですね。大学との連携で企画展となると同意してくれるところは減ってしまうけれども、それでも手をつないでART-LINKSという形で始めてみたらどうだろう?っていうのが世代が変わった僕ら側からの提案でした。
青山:結果、ART-LINKSを10年やりましたからね。そこから見えてきたのが、学生が作品を販売する時や、アーティストとして自立して歩んでいく上での“たしなみ”が足りていないということ。そのフィードバックとして「アーティストマネジメント」という新しい授業を立ち上げました。そうやって大学の教育をも変化させられたというのは大きいと思います。
深井:同時に、東京のギャラリーとのパイプをつくることに従事してくださったART-LINKS担当の酒井清一先生の存在も大きいですね。出品者である卒業生たちにギャラリーとの関わり方を指導してくださって、それが非常に効果的でした。さらに、酒井先生が退任された後も髙島屋さんが芸工大との関係をそのまま続けてくださることになり、僕らとしても髙島屋さんで展示したアーティストが、そのまま日本橋だったり新宿だったりで展示を続けていく事例が増えてきていると感じていたところで。
青山:他のギャラリーについても、例えば美岳画廊さんが松坂屋さんで芸工大生のグループ展を開催するなど、ART-LINKSを10年やってきたことによって生まれた有効活用が確かにあるんですよね。
深井:そうやってART-LINKSを通じて関わったギャラリーさんとはまだまだ関係が続いているので、ある意味でART-LINKSというものは完結したかなと。そこから派生する形で開始した今回のART-CONCEPTですが、一番大きく変えたのが大学院生を1~2人入れていくという点。つまり大学院のキャリア教育の中で、卒業生と関わりながら実践的な経験を積んでいく機会も取り入れ、教育の一環として位置づけてやっていこうと。
青山:これだけ学生の卒業後までを意識していろんなプログラムや支援を考えている大学ってあまりないと思いますよ(笑)。やっぱりアーティストとしての助走期間って結構時間がかかるもので、30代手前までは僕らも苦労しました。だからこそそれまでに孤立しないでいられるための情報提供だったり支援の形があるというのが芸工大の強みだと思います。
深井:この大学がある山形は東京みたいにハイアートが集まる場所にあるわけではないんだけど、僕らがちょっと階段を用意するだけでそこは補えるのかなって。すでに作品の質が他の大学と違うことは示せているので、その階段づくりを早期化させて大学院生からやっていきたいと考えています。
――そのART-CONCEPTに参加する学生として、2025年度日本文化藝術財団の奨学生にもなっている院生の川田英里佳さんを選出されましたが、その理由は?
青山:川田さんにはいつも現代性を感じる部分があって、現代性って言うとすごく漠然とした言葉に聞こえるけど、僕らとは違う世代だからこそできる表現というものが見え始めているんですね。それもあって早めに紹介した方がいいかなと。煮詰まっちゃうこともあるから、学生を外に押し出すタイミングって結構慎重に考えないといけなくて。
深井:僕は川田さんの卒業制作を観た時にとても魅力を感じて、そのソースがネットとかから拾ったものだけでできてるってところに現代性を感じるというか。それでいてちょっとヴォイニッチ※1みたいに何のために書かれたのかわからない不思議さみたいなものもあって。
※1 ヴォイニッチ手稿:15世紀初頭に作られた、いまだ解読されていない謎の古文書
作品タイトル:《waking dream 》 2024年度 東北芸術工科大学 卒業・修了制作展 優秀賞受賞
制作年:2024年 サイズ:1818×2590mm 使用画材:綿布、ピグメント、色鉛筆、アクリル
青山:あと面白いのが、10年前だったら「絶対ダメ」って言われていたようなことをしっかりやっちゃってるってところが(笑)。僕らが学生の時は写真も使っちゃダメだったけど、今の学生なんてプロジェクターを投影して絵を描いたりしてますからね。すごくインスタントに情報が入ってくる中で、この情報を拒絶する意味ってそこまでないのかなって。そういう意味でも僕らには多分できないアプローチなので、そこですごい興味を持ちました。
深井:僕らの世代は縦軸の歴史みたいなものが大事だったから、ネットというよりは本とか年表を見て学んでましたけど、今の子たちは千年前と現代を当たり前のように同列に並べたり、日本と海外の作家を並列で見れちゃったり。その感覚の違いを僕らは受け入れていくしかないと思っています。
――川田さんは今回ART-CONCEPTに参加してみていかがでしたか?
川田:まずこういう機会をいただけて嬉しかったです。普段は大学にこもって制作ばかりしているんですけど、今回このプログラムを通して画廊の方やフライヤーをつくるデザイン会社の方と実務的なやりとりができましたし、出展作家の人たちがみんな芸工大出身だったので、展示の設営の時や搬入の時に卒業後の作家活動について深い話をたくさん聞けて、横のつながりも得ることができました。また、ちょっと困ったり悩んだりすることがあっても深井先生や青山先生にすぐ相談できる環境にいられたので、それもすごく良かったです。
右から2番目が川田さん
深井:図らずも先輩たちが教えてくれる構造ができていたことを今聞けて良かったです。そこをねらいにはしていなかったので。
青山:いや、ホント良かったです。
――そういった育成・支援プログラムを提供していくことの意義を教えてください
深井:芸工大って就職したい人が就職を目指せる大学なんですけど、一方でアーティストになりたい人がアーティストを目指せることも一つのキャリア教育なんですね。T.I.P(将来アーティストとして活動することを強く志望する学生を選抜し、より実践的な学びの場を提供)にしてもDOUBLE ANNUAL(東北芸術工科大学と京都芸術大学が東京・六本木の新国立美術館を会場に、共同で実施する学生選抜展)にしても、裏テーマはトップスターがどういう扱いで展示していくのかを垣間見ながら、自分たちの将来を考えていくこと。今回の髙島屋さんとのART-CONCEPTに関しては、「マーケットとはどんなふうにできているのか」とか「ものを売るって何だろう?」とか、あとはコネクションのつくり方を知るというのがねらいで、そういったコンテンツを小さくてもいいからたくさん用意してあげられたらと思っています。


「DOUBLE ANNUAL 2026」での大学院生の作品
左)川口源太《Field Poppy Trail》(2026)/右)中島慎之助《回転道中 -不時着-》(2026)
作家として生き続ける力を養う、芸工大独自のキャリア教育
――拠点が山形にある中、東京で展示を行うことの価値についてはどう捉えていますか?
深井:今はまだ東京がマーケットの中心で、美術を観て何かコトを起こしたりモノを書いたりする人たちが多くいる場所だと判断しています。でももし誰も東京で美術を買わなくなって、例えば「これからはベトナムだ、中国だ」ということになればそちらに行けばいいわけで、その辺は臨機応変に捉えています。
青山:あと人間心理として、山形のオルタナティブスペースに置いてあるのと東京の髙島屋に置いてあるのとでは、同じ作品であっても価値が変わってきます。それは僕自身も東京のアートフェアに出た時に感じたことで、山形の人がわざわざ東京へ購入しに来るとか。だから商品に対する信頼という部分においても、東京にはまだまだブランド価値があると思っています。
深井:かと言って、東京であればどこでもいいかっていうとそうでもないしね。僕自身も「このギャラリーでやれば売れるけど、こっちのギャラリーだと全然売れない」みたいな話はよくあって。
青山:そう。だからそこは戦略的にいかないとですよね。特に学生は「どうしてこっちのスペースも同じような格好良さを持ってるのにダメなのだろう?」ってわからなかったりするから、それをリサーチできている僕ら教員側が学生に伝えていかないといけないと考えています。
川田:私、学部生の時に他大学の人から「芸工大は大学からの支援が手厚くていいよね」って何回か言われたことがあるんですけど、実際ART-CONCEPTに参加させていただいて、改めて自力で百貨店に展示するってすごい大変なんだなっていうのがわかって。だから今回こうやって大学からサポートを受けながら展示できたことは、自分の中ですごく大きな経験になりました。百貨店に在廊している間もいろんなお客さんとお話しできて、普段大学にいる時にもらうフィードバックとは全然違う見方があることを知れたというか。大学で描いてる時は絵の完成度というものをすごく考えていたんですけど、「そこは別に気にしなくていいんじゃないか」みたいに言ってくれた方がいて、ちょっと視野が広がった感じがしました。
青山:僕らが専門的なことを言うより、お客さんからの言葉の方が届いたりすることもありますからね。だからこそ全研究領域の院生が一堂に会す大学院レビューがすごく重要なんです。
大学院レビュー…年に2回、全研究領域の院生が一堂に会し、レジュメを作成して展覧会・学会形式で中間発表を行う
――これまで開催されてきたART-LINKSやDOUBLE ANNUALを経て活躍の場を広げている卒業生アーティストは多いですか?
深井:例えばART-LINKSだと、氏家昂大 さんの作品が雑誌『ART collectors’』の表紙に採用されたり、後藤有美さんが日本橋高島屋で個展を行ったり、浅野友理子さんが絹谷幸二芸術賞のグランプリを取ったり。それからDOUBLE ANNUALだと日本画コースの副手※2をしている鈴木藤成さんが岡本太郎現代芸術賞の特別賞を受賞したりと、キャリア教育の成果みたいなものはしっかり出てるよね。
※2 教員を補佐するスタッフのこと。講義の準備やサポート、学生の指導補助など行う。
鈴木藤成《Local Resilience》(2025)
青山:青山夢さんも注目されてますしね。そうやって活躍している卒業生が増えることで大学の教育に還元できる人材も増えていると考えています。
深井:そう、教員として育っているケースも結構ありますからね。そういうのも含めてうまく輩出できていると思います。またこれから時代も少しずつ変わっていくでしょうから、その時々に合ったキャリア支援に取り組んでいきたいと考えていますし、大学のキャリアセンターとも連携しながら、「アーティスト=職業」という捉え方も広げていきたい。就職を目指すことだけでなく、多様な進路の在り方がキャリア教育として認識されるよう、これからも伝え続けていきたいですね。
――今後の大学院教育の展望についても教えてください
青山:2026年度から大きく変わりますが、ガラッと変えるのではなく今までの教育を半分の量に抑えて、社会との接続を実践的に学ぶプログラムを増やしました。
深井:僕が専攻長時代につくり上げた大学院生の教養の部分と素養の部分、そこに現在専攻長である青山先生が改革した、より新しいキャリア支援型のカリキュラムが上乗せされる感じですね。選択での英語教育も始まるんですけど、例えば海外のアーティストインレジデンスに参加したい時の手紙の書き方だったり、ギャラリーへの自分のステートメントの説明方法など、うちの優秀な英語教諭と一緒に話し合いできるような授業が展開される予定です。
青山:それからもう一つ、先ほど東京で展示することについて話をしましたが、ちょっと視点を変えて、逆に地方で自立していく手段としてアートによる“ローカルイノベーション”という考え方を学べるような授業もあります。きっと東北地方で何かを起こしていくようなタイプのアーティストが生まれてくるのではないでしょうか。
深井:実は僕自身も、やまがたクリエイティブシティセンターQ1の3階で工芸を販売するお店を、1階で現代美術のギャラリーを運営しています。先ほど“東京で今見せるべき時期”みたいな話をしましたけど、やはりこちら側にもちゃんと拠点は必要で、最終的には山形発信だけでなんとかなるような場をつくりたいっていうのが正直なところですね。
――そんなふうに学生のうちから東京でも地方でもやっていける術を学べるというのは相当な強みになると思うのですが、川田さんは今回ART-CONCEPTで得たものを今後にどう活かしていきたいと考えていますか?
川田:このプログラムを用意してくれた大学側は、私たち学生や卒業生の“その後”に期待してくれていると思うので、こうやって一つの展示をつくり上げていく機会を得られたことを一度の思い出にするのではなく、ちゃんと次の自分の活動の糧としてつなげていきたいという気持ちがすごくあります。
青山:それすごく嬉しい。
深井:僕らとしても、作家として活動を続けていく院生をしっかりと見極めたうえで、自分たちの責任をもって送り出していきたいと思っています。「この学生なら大丈夫だ」って信じて。
――では受験生や大学院への進学を考えている学部生へ、それぞれメッセージをお願いします
川田:先ほども話した通り、芸工大の在学生や卒業生に対する支援プログラムは他大学の人から見ても手厚く充実しているので、大学とのつながりを大事にしながら最大限活用して、それぞれの可能性を広げていってくれたらと思っています。私も頑張ります。
青山:では私からは学部生に向けて。芸工大の美術科は日本の美大の中でも高い就職率なんですが、働いたら制作をやめるのではなく、働きながら制作を継続していく選択をしてほしいと思っています。だからこそものをつくる楽しさを手放さずにいられるシステムとしてアートフェアに挑戦するためのプログラムを授業化しました。卒業後もアーティストとして歩んでいくためのきっかけをしっかりと提示していくっていうのは、他の美大ではなかなかやっていないことだと思います。まさに川田さんが言っていたように、大学を卒業した後、その何倍もこれから生きていく中で、制作を手放さずに歩んでいける道を手厚く準備してあげられることがこの大学ならではの特色だと思っています。
深井:同じく僕が院生に一番伝えたいのも、やめないで続けること。若いアーティストは勢いで突き進むことができるんだけど、大体30代中盤で一回止まるんですね。そんな時、本人を助けるのは知識と経験値。大学院教育というのは勢いのつけ方を学ぶと同時に、中堅で止まってしまった時にもう一回助走をつけるための補い方を学ぶものでもあって、僕らはそれを教えつつ、今をどう生き抜くのかみたいなことも伝えていけたらと思っています。あとはやっぱり夢を持ち続けてほしいですね。ここでは教員それぞれが学生一人一人と悩みながらぶつかり合い、そして、それぞれに対する正解を求めながらキャリア教育を行っています。これだけ学生に関わる大学院もないと思いますし、あとは何より制作スペースが広い。教育のコンテンツについてもどんどん新しいものを制作していきたいと考えています。

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卒業後の進路は個人に委ねられがちな美術大学において、作家活動を長く続けるための支援体制を整えることでアーティストの歩みに伴走する存在となっている芸工大。さらに今回の取材を通して、東京のマーケットと地方の文化的土壌の両方と接続できる柔軟さを持ち合わせていることも大きな魅力になっていると感じました。ART-LINKSから派生する形で始まったART-CONCEPTはまさにキャリア教育の最新の形であり、これからも時代に合わせて変化し続けていくことでしょう。
(文:渡辺志織、撮影:法人企画広報課)
展覧会プロジェクトを通した大学院教育と、卒業後も続く作家支援。本学の育成プログラムのかたちを紹介しました。
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