キヤノン株式会社で、カメラを中心に自社製品のUX・UIデザイン を担当している東山美由(ひがしやま・みゆ)さん。ご自身がデザインを手がけたカメラ『EOS R50 V』は、2025年度グッドデザイン賞を受賞しました。今回は、カメラのほかにもさまざまな製品のデザインを担当している東山さんに、UX・UIデザインの奥の深さや、芸工大のプロダクトデザイン学科の魅力について伺いました。
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地道な積み重ねの末に生み出された新商品で、グッドデザイン賞を受賞!
――東山さんの“UX・UIデザイナー”というお仕事について教えてください。
東山:そもそもUX(User Experience)とは、ユーザーが製品などを使うときに得る「使いやすい」「心地良い」といった“体験”のことです。そして、その体験を生み出すための要素のひとつがUI(User Interface)で、カメラのシャッターや操作画面のアイコンなど、ユーザーが製品に触れる“接点”を指します。私の仕事では、カメラをはじめとするキヤノンの製品で、このUX・UIの両面からデザインを考えています。

カメラで撮影するときに見える「画面のデザイン」や「操作感」の設計はもちろんのこと、「ユーザーの体験を考える」といったことも行っています。
製品の企画段階ではまず、「どのような人が、どういった動機でこの製品を使うのか」というシナリオから考えるんですね。そして、それを企画や製品開発の部門と共有しながら、製品像のイメージを固めていきます。製品像が決まったら、画面のUIやアイコンなど、具体的な部分のデザインをパソコンで作成していく、といった流れです。
言い換えるなら「製品を使ってくださる方が、心地よく操作できるような体験をつくること」が私の仕事ですね。

――「UX・UIデザイン」というと、カメラ以外にもスマートフォンのアプリやWebサイト、家具・家電などいろいろな分野があると思います。そのなかでカメラを選ばれたのは、どのような理由なのでしょうか?
東山:実は私の場合、最初から「カメラのデザインをやってみたい!」と思っていたわけではありませんでした。
もともと学生時代から、目に見える物理的な部分である“ハード”と、UX・UIのような形のない“ソフト”の両方に興味があったんです。その点、キヤノン株式会社なら、カメラやプリンターの操作画面のように、「ハードの中に組み込まれているソフトのデザイン」を手がけられると思ったんです。
私自身、キヤノン株式会社といえばやはりカメラの印象が強かったのですが、実際は医療機器や産業機器、半導体製造装置など本当に幅広い分野を手がけている会社なんですよね。普段はカメラを主に担当していますが、分野の垣根を越えてプロジェクトにアサインされることもあります。最近は、医療関係の製品の画面も担当させていただきました。

――2025年3月には、東山さんがUIデザインを担当されたミラーレスカメラ『EOS R50 V』が発売されました。製品開発のプロジェクトにはどのように関わったのでしょうか。
東山:「ユーザーは、この商品で何を体験できるのか」という製品開発初期のコンセプトを考える段階から携わりました。そこから何度も検討を重ねて、新しい撮影設定の画面や画面上に表示されるアイコンなど、細かな部分のデザインまで手がけました。
私にとって、初めて最初から最後まで携わった製品が、この『EOS R50 V』なんです。なのですごく思い入れがありますし、自分用に購入もしました!

――『EOS R50 V』のデザインを考えるにあたって、どのようなことを意識されたのか、ぜひ教えてください!
東山:『EOS R50 V』は、初心者の方でもスマホのような感覚で、本格的な動画を撮影できるカメラです。近年、SNSで主流になっている縦向きの映像も簡単に撮影できるようになっています。
デザインで一番よく意識したのは「カメラを横持ちから縦持ちに替えたときに、画面の印象が変わらないようにする」という点です。どのような場面でもすぐに操作できるよう、ボタンやアイコンの位置を細かく調整しました。
また、YouTube用にお料理動画の撮影などをされる方の場合、カメラを少し遠くに置いて操作するので、遠くからでもしっかりと視認できるような画面にデザインすることも意識しましたね。

――見た目の美しさだけでなく、意識することがたくさんあるんですね。
東山:ほかにも、色覚特性がある方でもUIをきちんと視認できるよう、コントラストを確認したり、海外の方にも意味が伝わるようデザインを考えたり……など、いろいろな観点が必要な仕事なんです。アイコンに使うモチーフによっては、国や宗教が違うと意味が違って伝わってしまう場合もあるので、そういった点も考慮しています。
――『EOS R50 V』のUIデザインを作成していて、大変だったことはありましたか?
東山:作業中と、実際に手元で確認したときとで、デザインの見え方が変わっていたことです。
カメラのUIデザインはパソコンの画面上で作成し、一旦出来上がったら、開発部門の方にカメラ本体に実装していただいて、それを確認しています。 画面上では「これだ!」と思ったものでも、実装してみると、目の錯覚で形が変わって見えてしまうんですよ。「あれ? ここ、なんか尖って見えちゃうな……」「サイズは同じはずなのに、小さく感じるな……」みたいな。
なので、実装時の見え方を都度確認して、ギャップを埋めるために調整を繰り返したのは印象に残っています。
【EOS R50 V】Product Movie(キヤノンマーケティングジャパン / Canon Marketing Japan)
――このお仕事でやりがいを感じるのは、どんなときですか?
東山:自分が作成したデザインやアイコンが、実際の製品の画面で表示されているのを見たときですね。「私がデザインしたアイコンがここにあるよ~」って、言いたくなります(笑) なかには、あまり目立たない小さなものもありますが、それでも実際に反映された画面を見るととてもうれしいです。
「世に出回っている製品の一部に、私の手がけたものが確かにあるんだな」と実感できるのが、この仕事のやりがいだと思います。特に『EOS R50 V』は、ありがたいことにグッドデザイン賞2025を受賞しまして。そこに自分の名前があるのは、ちょっとした感動ですよね。
「やりたいこと」を見つけられた、プロダクトデザイン学科という環境
――芸工大のプロダクトデザイン学科を受験した理由を教えてください。
東山:受験当時は、自分の進みたい道が決まっていなかったんです。でも、絵を描くことは好きだったし、ざっくりと「デザインって面白そうだな」とは思っていて。じゃあ、デザイン系の学科かな……と考え、芸工大の学科について調べていくうちにプロダクトデザイン学科の存在を知りました。
プロダクトデザイン学科では、UIやインテリアや家具など、幅広い分野でデザインを学べるので「ここに入ったら、自分のやりたいことが見つかるかも」と思って受験しました。あとは、就職率が高いところも決め手の一つでしたね。
――入学後、酒井 聡教授※のゼミに入り、UX・UIデザインの道に進むことになりました。どのような経緯でUX・UIデザインに興味を持ったのでしょうか?
芸工大のプロダクトデザイン学科はUX・UIを重要視していて、一年生の段階からUX・UIの必修授業があったんです。その授業で学んだ「ユーザーが体験するストーリーを考えてから製品を提案する」という一連のプロセスが楽しくて、この道を選びました。 ただ、製品のデザインも同じぐらい楽しかったので、専攻を決めるときはすごく迷いましたね。
※本学デザイン工学部長、プロダクトデザイン学科教授。詳しいプロフィールはこちら。
――大学で学んだ内容で、印象に残っているものはありますか?
東山:2・3年生のときにあった「UXデザイン演習」です。グループワークで、教授から出されたお題に沿って製品を考えるという内容でした。
この演習の特徴は、ただ製品のアイデアを出すのではなく「その製品が実際にある」と考え、製品がユーザーの暮らしに溶け込んでいる様子を映像に撮って発表するところです。 紙の図面や画面上のデザインだけで終わらせずに、実際に“ある”ものとして考えることで、プレゼンの内容に一気に説得力が生まれたのはとても印象に残っています。

――今後はUX・UIデザイナーとして、どのようなデザインを手がけていきたいですか?展望を教えてください。
東山:使った人が「心地良い」と感じる、感性に訴えかけるような、情緒的な価値のあるデザインを追求していきたいです。今は主にカメラのデザインを手がけていますが、今後はカメラだけでなくプリンターや産業機器なども手がけてみたいですね。
この会社は新しいことにチャレンジする機会をいただける環境なので、これからも経験を重ねて精進していきたいと思っています。どんな製品をデザインするにしても共通して持っていたいのが「情緒的な価値のあるデザイン」というところです。

――最後に、プロダクトデザイン学科を検討している受験生へメッセージをお願いします。
東山:デザインの世界にほんの少しでも興味のある方には、芸工大のプロダクトデザイン学科が本当におすすめです!
今思えば、「プロダクトデザイン」の意味もよく知らずに入学しましたが、入学すればそれがどのようなものなのかがわかりますし、デザインの奥の深さを学べます。いろいろな分野に触れるうちにデザインの面白さがどんどんわかってきて、自分が「やってみたい!」と思える分野もきっと見つかるはずです。
県外から進学した身としては、山形県という立地もすごく魅力的だと思っています。自然が身近にある土地で、のびのびとした時間が流れるなか、自分のペースでものづくりに向き合えるところが良いです。 授業の一環で地域の方々と関わったり、東北の伝統工芸について知ったりすることができるのも、山形の芸工大ならではの体験です。 芸工大にしようか、ほかの学校 にしようか迷っている方がいたら、ぜひ芸工大にチャレンジしてみてください!
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「プロダクトデザイン」「UX・UIデザイン」いずれも一般的には馴染みの薄い言葉かもしれませんが、私たちの身の回りにある、あらゆる製品は東山さんのようなデザイナーによって生み出されています。 東山さんは、今回ご紹介したほかにも、展示用ロボットの音のデザインなども手がけています。さまざまな分野を学べるプロダクトデザイン学科で過ごしたからこそ、分野にとらわれない柔軟な発想を生かして活躍されているのだと感じました。
(撮影:永峰拓也、取材:城下透子、入試課・加藤)
東北芸術工科大学 広報担当
TEL:023-627-2246(内線 2246)
E-mail:public@aga.tuad.ac.jp
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