長年培ってきた描く力、何のために描くかという意志/イラストレーター・キャラクターデザイナー 卒業生 先崎真琴

インタビュー 2020.03.25|

イラストレーター・先崎真琴(せんざき・まこと)さんは、美術科・洋画コースの卒業生。『ときめきレストラン☆☆☆』『コンビニカレシ』などの女性向け作品を中心に、数多くのキャラクターデザイン、イラストを手がけています。人気のキャラクターを生み出すお仕事のプロセスや、その裏にあるご苦労、大学時代のお話などをお聞きしました。

見る人の思いに応えたい

――普段のお仕事内容を教えていただけますか?

先崎:大きく分けると、イラストを描く仕事と、キャラクターをデザインする仕事の2つがあります。イラストを描く仕事というのは、すでに私が作ったキャラクターがあって、それらをいろんなイラストに起こしていくというもので、コンテンツが展開していくに従って、この仕事が増えていきます。

キャラクターをデザインする仕事(以降、キャラデザと略)は、クライアント様から「こんなキャラクターをつくりたい」というオーダーをいただくところから始まります。キャラクターを構成するステータスを文章でリスト化したものをもらうことが多いですね。

この『ステップライド』という作品だと、ジャンルがスポーツで、女性に向けて訴求力があるもの、というオーダーをいただいて、こちらから1キャラにつき2パターン程度のビジュアルイメージを提案しました。先方から具体的なイメージを引き出すために、複数のパターンをお見せして、やりとりのベースにすることが多いです。ビジュアルイメージを細かくオーダーされることはあまりなくて、自分の引き出しの中から引っ張ってこなきゃいけない。それが難しかったりするんですよ。

(絵を見ながら)例えばこのキャラは、制作の過程でロングヘアになったりショートヘアになったり、表情のバランスも変わりましたね。先方と相談しながら少しずつ絞りこんでいく作業なので、キャラデザはイラストよりもずっと時間がかかります。

クライアント様との付き合いも長くなってくると、ざっくりとしたオーダーの場合もあって、「今回は明るいのでお願いします」とだけ、なんてこともあります(笑) 仕事の内容やクライアント様によって、仕事の進め方が全然違うんです。もうオーダーメイドというか。そこが面白かったりするんですけどね。

――男性のキャラクターをデザインされることが多いのでしょうか?

先崎:そうですね。デビューが男性キャラクターだったので、みなさんそういう印象をお持ちなんだと思います。あと、私のキャラクターを好きな方に女性が多いというのもあると思います。

――イラストのお仕事の全てに、先崎さんのクレジット を入れられるんですか?

先崎:よっぽどの理由がない限り、クレジットを入れることを条件に契約しています。そうしないと次の仕事につながらないというのも理由として大きいです。例えばメインのイラストレーター様が別にいて、それをフォローする形で作品に参加する場合には、名前を出せないこともあるかと思うのですが、こうしたケースを除くと、どのイラストレーター様もみなさん名前を出していますよ。Twitterにお仕事情報の告知を投稿したりするんですが、このことでフォロワーさんが商品に興味を持ってくれることもあります。だから、クライアント様も好意的に捉えてくれているようです。

※クレジット:「この作品は自分が描いたもの」ということを示す署名のようなもの。

――ちなみにどのくらいの作品を同時に手がけているんですか?

先崎:今月で言うとしたら、6作品同時進行。よくやった私(笑) こんなふうに並行して作業しているとやっかいなのが絵柄を変えた時で- (作品を見ながら)絵柄を変えてるんですね。絵柄の異なる2つのコンテンツを走らせてたりすると、私今何を描いてるんだっけ?ってこんがらがります(笑) 復習のために反復して描いてみたりして。

――お仕事をする上で、大切にしていることはありますか?

先崎:イラストの場合には、キャラクターの心情だったり、置かれているシチュエーションを、見る側にきちんと伝えられているかという点を一番大切にしています。極端な例で言えば、顔は笑ってないのに楽しげな演出やシナリオだったりすると、お客様に与える印象がちくはぐになってしまう。だから狙ったところに持っていけるように気を付けています。

キャラデザの場合には、お客様がキャラクターを見た時に、どういう存在に見えるのか、という点を大切にしています。お客様が恋したい相手なのか、お母さんのような温かい存在なのか、設定どおりにちゃんと感情移入できるキャラクターを作ることが一番大切だと思っています。そこが少しズレちゃうと、イラストの場合と同じで、狙ったところに落ち着かない。シナリオとキャラクターがちくはぐで、物語の世界観に入り込めなくなってしまう。だからぴたっとリンクすると、描いてる私もすごく気持ちいいんです。

――アイデアの引き出しを増やすために普段からしていることはありますか?

先崎:意識的にやっているわけじゃないんですけど、「人」の気になったところをちょっとずつ覚えておく感じですかね。ビジュアルの他にも、言動だったり、雰囲気だったりっていう、キャラが立ってると感じる要素を抑えておくみたいな。例えば、髪をかきあげたりなどのクセや特徴的な仕草も大きな要素で、キャラに起こすのが楽しいですね。

自ら売り込むことで手にした、イラストレーターの仕事

――ところで、先崎さんがイラストレーターになったきっかけというのは?

先崎:イラストレーターと言い始めたのは、勤めていたゲーム会社で、キャラデザを担当させてもらってからです。会社を辞めて独立してからはイラストレーターもしくはキャラクターデザイナーと扱ってもらっています。

――前職でもイラストを描くお仕事をされていたんですね

先崎:はい。イラストを自社で内製していたすごく忙しくてハードな時代でした。今はそうしたやり方はあまりないですよね。でもこの経験を経て、タイミングよく独立させてもらえたと思っています。

私は就職するまで、デジタルイラストというのをほとんど描いたことがありませんでした。学生時代はずっと、それこそでっかいキャンバスに向かって描いていましたから(笑) 「これ、どうするんだろ?」みたいな、まさにゼロから始まったんです。

全然デジタルに対応できていないのに、どうして採用になったのかを入社後に先輩社員に質問したことはよく憶えていて、要は「基本ができていないと、デジタルになっても通用しないから」ということでした。

「メインの絵を真似して別角度で描いてください」「このキャラの洋服の別バリエーションを描いてください」なんてオーダーされるんですが、都度さまざまなテイストに対応していくには、すごく基礎力が必要でした。絵を描く基礎ができていないと、いくら便利なデジタルツールで作品を作ると言っても、品質の良いものはできない。スキルは後から身に付くので、基礎力の高い人材を集めたかった、ということでした。

――当時、先崎さんと同期入社の方たちには、同じ状況の人も多かったんですか?

先崎:いや、それが全然いなかったです(笑) デジタル作画が得意で、私よりもっと上手い方がたくさんいました。でも、入社後にいろんな担当に振り分けられるから、みんながみんなキャラクターを描く仕事ができるかというとそうじゃないんです。厳しかったです(笑) 私も最初は全然違う仕事をしてました。メインの絵を真似したり、量産する仕事をして、それでスキルを身に付けてから、ようやく任せてもらえた感じですね。

その仕事も与えられたという感じではなくて、自分から取りに行きました。上司のところにポートフォリオを持って行って「見てください!」って。そうやって拾ってもらって、ようやくスタートラインに立てたんです。

――自分を売り込む、そうした会社の気風があったんですね

先崎:いや、全然なかったです(笑) だから、すごく上手なのに目立つ仕事をしていなかったりとか、本当にもったいない方が多くて。自分から主張していた人の方がチャンスを掴めていたと思います。

何のために、誰に向かって絵を描くのか

――芸工大の洋画コースに入学しようと思ったのは?

先崎:学費が安かったことが大きいですね。当初は、東京の美大を受験することも考えていたんですが、学費も生活費も高いし、4年間生活するのが大変そうだな…と思って。推薦入試で洋画コースに合格できたので、芸工大一本にしました。

――もともとイラストを描くのが好きだったんですか?

先崎:高校では美術系の学科にいたので、毎日美術に浸ってたんですが、好きなはずの漫画やアニメ、ゲーム等イラストのアウトプットは全然できていなかったですね。一日中ずっとデッサンをやって、受験するための絵を描いていました。今になって思えば、感性が若いうちにイラストをたくさん描いていたら…とは思いますね。

――ちなみに、お仕事されていて、大学での学びが生きていると感じることはありますか?

先崎:スケジュール管理かな。私は大学生の頃から、締切に関しては頑張っていました。ちゃんと締切を守る人の方が、社会人になってからはいいことがあります。大事ですよ。

あと、友人がデザイン学科にたくさんいたこともあって、割と自然にデザインする仕事に進めたのかな、と思うことはあります。いろんな学科があって、でも学科間の壁はあんまりなくて、他学科の学生の作品だっていつでも見られるじゃないですか。制作風景も見れるし、「今何やってるの?」っていう話もできる。当時の洋画って、結構アーティスティックな人たちが多くて、誰に気に入られるべきかとか、顧客の視点っていうのがそこまでないように感じて、誰かに向けて絵を描くというのも悪いことじゃないんじゃないかって、心の中で思っていました。
だから、デザイン学科の友人を通して、人からのオーダーを受けて、それに沿って進めていくデザインの考え方は、個人的に納得できる部分があったんだと思います。

――大学でも、卒業後も絵を描き続けたいなら、絵具代を得るために働く必要があるよね、という話をしています

先崎:私も学生時代は貧乏だったので、めちゃくちゃ分かります! 途中で油絵をやめて、アクリル絵の具とパステルでの制作に切り替えた理由もそれです。油絵の具を厚く塗れないので、ナイフで削りながら薄く塗るみたいなことをやってましたが、薄めても発色のいいアクリル絵の具を見つけてからは、アクリルにシフトしたくらいですから。

――今後、やってみたいお仕事はありますか?

先崎:今は女性向け作品のイメージをお持ちの方が多いと思いますが、今までとは異なる対象に向けた作品を描いてみたい。男性・女性問わず、幅広く描いていきたいです。あと、今子育て中なので、キッズ向けのものにも挑戦してみたいですね。

――最後に後輩たちへのメッセージをお願いします

イラストレーターになりたい人へのアドバイスになってしまいますが、お客様が何を求めているのかを考えた方がいいと思います。イラストレーター様によっては、自分が描きたいものをという方もいると思いますけど、私の場合はお客様が、という考えが強いです。

それから、今はPCやソフトがすごく安いので、アルバイト代を少し貯めれば、さくっと買えちゃいますよね。だから例えば、日中は洋画コースで制作をしっかりやって、家に帰ったらPCで、ってこともできると思います。

美術科の卒業生は、私のほかにもイラストレーターになった方がいたり、アニメーションの背景画を描いている方がいたりと、多岐に渡っています。イラスト=デザイン科と考える方が多いかもしれませんが、一つの選択肢として美術科も視野に入れてみてはいかがでしょうか。

仕事の幅を広げ、ファンの数もどんどん増えている先崎さん。ファンの方からお手紙をもらうなど、反応が得られたときが一番うれしいと言います。また同時に、その期待に応えなくてはという責任も感じているそうです。
高校と大学で培った高い画力が、イラストレーターになるための大きな要素であったことは間違いありませんが、それに加えて、自分の絵で何ができるか、誰に向けて描くのかを常に意識して、具体的な行動に移すことで勝ち得たキャリア。先崎さんからは、軸がブレない・芯の通った強い人、という印象を受けました。

専用のソフトや周辺機材の大衆化によって、比較的容易に絵を描けるようになった今だからこそ大切なことがあります。先崎さんのお話はとても多くの示唆を与えてくれるものでした。
(撮影:志鎌康平 取材:渡辺志織、企画広報課・須貝)

画像提供協力
一血卍傑/株式会社DMM.com OVERRIDE Rejet株式会社
コンビニカレシ/株式会社KADOKAWA Game Linkage
ステップライド/日本トーター株式会社
戦国大戦TCG/株式会社セガホールディングス
Fate/Grand Order/ディライトワークス株式会社
ふろ恋 私だけの入浴執事/東京ガス株式会社

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東北芸術工科大学 広報担当
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