SDGsを自分事として捉えるきっかけをつくりたい/佐藤朋子 建築・環境デザイン学科4年

インタビュー

建築・環境デザイン学科4年の佐藤朋子(さとう・ともこ)さんは、山梨県の出身。首都圏で大手メーカーに勤務していましたが、ご主人が家業を手伝うことになり、2015年に、お子さんと山形市に移住しました。そして、社会人入試で本学に入学。現在は、宿題をする小学生のお子さんと机を並べて学業をこなす毎日。そんな中、SDGsを山形の人々に周知させる手法を卒業研究のテーマに子どもたちでも楽しめる「山形版SDGsシミュレーションカードゲーム」を開発しました。今回は、その開発エピソードを伺います。

――数ある社会課題の中から、佐藤さんが「SDGs」にフォーカスしていったきっかけを教えてください

首都圏で勤めていた頃、会社で「グリーン購入」(環境負荷の少ない商品を購入すること)をする一方で、家では大量消費する生活だったり、少子高齢化や地球温暖化という言葉は知っているのに、それが詰まるところどういうことで、自分にどう跳ね返ってくるかに思いを馳せたことはありませんでした。

しかし、社会人学生となって、いろんな学科の刺激的な授業を聴講するうちに、広い視野や既成概念に捉われない思考、新しい価値観を得ていき、自分が在籍する建築・環境デザイン学科で気候変動、地域格差など地域の持続性を脅かす社会課題と向き合ったときに、次第にSDGsが自分事になっていったように思います。

そして次世代の将来を案じるという漠然とした不安から一歩踏み込み、社会、とりわけ自分が暮らす山形の人々にSDGsを知ってもらおうと考えるようになりました。

――SDGsを山形の人に知ってもらう手段として「ゲーム」を選んだのはどのようなことからだったのでしょうか?

この大学で様々なデザイン手法を学んでいるときに、小学生がつくった食品ロス問題を考えるカードゲームの新聞記事を目にして、ゲームの要素や原則を応用して課題を解決する「ゲーミフィケーション」を使って開発してみようと思いつきました。
SDGsは解決が困難で世界規模の社会課題も含むので、私たちの身近なこととして捉えにくい側面がありますが、ゲームにすることで興味や好奇心を持ってもらいやすく、さらには地域の人に寄り添った内容でつくれば、山形の皆さんにも知ってもらえるのではないかと考えました。

目的が明確になり、県内企業のSDGsへの取組に関するヒアリング調査や、既存のSDGsカードゲーム体験会に参加するために東京などに赴き、自治体、小学校~高校の教育機関へのSDGsに関する取り組み・関心のアンケートを実施した。

――「山形版SDGsシミュレーションカードゲーム」の試作品づくりを繰り返し、7回目の試作品で初めて、市民に実際に体験してもらったそうですね

はい。まずは試作品を芸工大の学園祭に来場したお客様に体験していただきました。ちょうど企画構想学科にサスティナビリティを研究されている山縣弘忠先生がいらしたので、そのゼミ生のみなさんにも手伝ってもらいました。

ガールスカウトでの実施風景。カードゲームの振り返りを実施。

初の山形市民向け体験会でしたので、世界規模の社会課題であるSDGsを山形の身近な題材に落とし込んだ「山形版カードゲーム」と、SDGsの17目標が山形にも関係があることを知る「SDGsクイズ」で臨みました。そうしたら嬉しいことに、その学園祭でゲームを体験したガールスカウト山形県連盟事務局の方が自分たちの集会で実施したいとお声がけくださったんです。そして「SDGsって何?」「どうしてみんなが取り組もうとしているの?」「私たちにどんなアクションが起こせるの?」という視点を考えるワークショップを実施したところ、小学生から成人までの27人が参加してくださいました。

SDGs体験者アンケートの8割以上が「自分にも関係がある」という結果は、今回のカードゲームのねらいが成功している証となっている。

――この研究をしていて嬉しかったことを教えてください

以前、山形県立遊佐高校から、このカードゲームを使って探究型学習をしたいという依頼があり、生徒たちに、ゲームで使用するカード自体を作る宿題を出しました。その中で、山形の伝統的な「花笠踊り」の“みんなが笑顔で踊る”という特徴を、SDGsが掲げる「世界を変える17の目標」のうちの、「平和」や「健康」の達成に繋がるアクションに結びつけている生徒がいて、とても感動したことがありました。これは、「花笠踊り」を“伝統”という概念でしか捉えない大人は発見できないことだと思いました。世界的な規模の課題も、世代や職業、地域などの垣根を壊せば、このように思わぬ視点や考え方が出せる、そんな可能性をこのカードゲームに感じて、とても嬉しかったです。

――逆にカードゲームを開発する中で不安だったことはありましたか?

SDGsに関するカードゲームは存在していたので、著作権のことが気になって不安だったことがありましたが、カードゲーム「2030 SDGs」をつくった㈱プロジェクトデザインに問題点がないか問い合わせてみたところ、「SDGsには“ゴール17のパートナーシップ”があるので問題ないです。ゲームを通じてお互い社会課題に挑戦していきましょう。」という励ましの言葉をいただきました。SDGsの17の目標のうち、私がもっとも大切だと思っている“パートナーシップ”をこの時に体験して、嬉しさがこみ上げてきた瞬間でした。

――今後のこと、卒業後の活動は?

このカードは現在様々な方から問い合わせをいただいていますが、私としてはまだパートナーシップという視点では足りないと思っています。私は今年でこの大学は卒業してしまいますが、これからもこの活動を続けていくために、教育機関の方々にもっとアプローチをしていきたいと考えています。

山形県の人口減少率は全国6位。人口減少は、地域の持続性を脅かす課題を連鎖的に増やす可能性があります。佐藤さんのゲームの「プレイヤー」は山形に住まいを持つ山形市民の設定です。このカードゲームで、市民が地域の持つ魅力や資源に気づき、それらを最大限に活用しあうことができれば、持続可能な山形となっていくことでしょう。また。山形市民一人ひとりがどんなアクションを日々選択するかで、地域内の環境や社会、経済の変化に気づくことでしょう。
遊佐高校の生徒は、「自分の一つ一つの行動が少しずつ世界を変えていることに気づいた」とゲームの感想をくれましたが、みなさんはどんな実感を得ることができるのでしょうか。

今回ご紹介した佐藤さんのSDGsカードゲームは、現在開催中の卒業/修了研究・制作展で(建築・環境デザイン学科会場にて)実物を体感いただけます。
また、「山形版SDGsシミュレーションカードゲーム」についてのお問い合わせは、企画広報課までお願いいたします。

(取材:企画広報課)

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東北芸術工科大学 広報担当
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