新年の抱負
Happy New Year! 2026年になりました。今年もどうぞお付き合いよろしくお願いします。
かんがえるジュークボックスの”New Year’s Resolution”すなわち「今年の抱負」は、この調子でいくと秋には50号を発行できる予定ですので、初回から最新号までに扱ったレコードすべてのジャケットの展示会を開くことです。このほか、現在cold sleep状態のかんがえるジュークボックス発のバンドである夕ヶ谷姉妹の再開ライブに向けた個人練習を充実させること、こんなところです。
さて、あらためまして、今年は午(うま)年。競走馬のようにしなやかに駆け抜けたいものだと思いながら、日々、わたしは山を走って登っています。そう、わたしは陸上部の顧問でもあるのです。
雪はときどき降る山形ですが、1月はまだ外で走れる日が多いものです。トップ画像は、1月某日の西蔵王からの景色。下りより登りが好きです。
イギリスのアメリカの馬の歌
午(うま)年ですから、馬に関する曲を聴きましょう。今回の曲は1972年の「名前のない馬(A Horse With No Name)」。これを歌うのは、アメリカ(America)です。
このアメリカという名のバンド、イギリスで結成されたアメリカ人の3人組です。ちょっとややこしい。「名前のない馬」は、馬に乗って砂漠を旅することを歌っているのですが、曲が進むにつれ、旅の話が社会批判に切り替わっていく、そんな構成が見事です。馬の足取りのような、パッパカパッパカという曲のリズムも、淡々と進む旅人の心境を表しているようで素敵です。
On the first part of the journey
旅のはじめにはI was lookin’ at all the life
ぼくはあらゆる生命を見ていたThere were plants and birds and rocks and things
草木に鳥に、岩やら色々There was sand and hills and rings
砂と丘とクレーターの輪The first thing I met was a fly with a buzz
最初に出会ったのは、うるさい1匹のハエAnd the sky with no clouds
雲一つない空The heat was hot and the ground was dry
空気は熱く、地面は乾いていてBut the air was full of sound
でも、音があふれていた
(Chorus)
I’ve been through the desert on a horse with no name
名前のない馬に乗って砂漠を旅してきたIt felt good to be out of rain
雨が降らないのは気分が良かったIn the desert, you can remember your name
砂漠では、自分が誰か認識できるものだ‘Cause there ain’t no one for to give you no pain
だって、苦しめる者などいないから
After two days in the desert sun
砂漠の太陽の下、2日後My skin began to turn red
肌が赤くなり始めたAfter three days in the desert fun
砂漠で楽しんで、3日後I was lookin’ at a river bed
わたしは川の底を見ていたAnd the story it told of a river that flowed
川は水を湛えていたという話を聞いてMade me sad to think it was dead
悲しくなった、もう干上がってしまっていたから
(Chorus)
After nine days, I let the horse run free
9日後、わたしは馬を放した‘Cause the desert had turned to sea
砂漠が海になったからThere were plants and birds and rocks and things
草木に鳥に、岩やら色々There was sand and hills and rings
砂と丘とクレーターの輪The ocean is a desert with its life underground
海だって、その下に生物がいて、一種の砂漠といえるAnd a perfect disguise above
表面だけ見れば完璧に隠れているけれどUnder the cities lies a heart made of ground
街だって、その下に暮らす者がいるBut the humans will give no love
けれど、人間は
(Chorus)
都会は砂漠か
やはりポイントとなるのは、コーラス部の「砂漠では、自分が誰か認識できるものだ(In the desert, you can remember your name)/だって、苦しめる者などいないから(‘Cause there ain’t no one for to give you no pain)」という箇所でしょう。直訳すれば「自分の名前を思い出せる」でありますが、ここでは「自分が誰かわかる」というふうに意訳しています。
日本盤シングルの歌詞カードには、”You can’t remember your name”と記載されています。つまり、否定文になっちゃっている誤記があるのです。最初にそれを読んだとき、なるほど過酷な砂漠の旅のなか、自分を苦しめるような奴が日常にはいるからこそ、自分とは何か認識できるという境地に達したのかあ、と感心したのですが、違いました。正しくは”You can remember your name”という肯定文。だからこれは、都会の喧噪を離れて自分を見つめる機会の有り難みを歌っているのでしょう。
また、「都会には愛はない」のほか、都会には魔物が住んでいる、なんてよく言うものですが、住んでいる人の心の持ちよう次第な気もします。都会だ愛だ砂漠だと聞いて、前川清の「東京砂漠」を歌いたくなった方もおりましょう。わたしもそうです。しかし『かんがえるジュークボックス』は洋楽シングル盤専門コラムのため、扱わないのです、あしからず。
というわけで、2026年、日常のバタバタのなかで自分が何者か忘れてしまわないように、謙虚な旅人の気持ちで暮らしたい、そう思うのであります。謙虚な気持ちが強すぎて、今回もまた「ですます」調になってしまいました。
それでは、次の1曲までごきげんよう。
Love and Mercy
(文・写真:亀山博之)
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#かんがえるジュークボックス(第1回~第40回)
亀山博之(かめやま・ひろゆき)
1979年山形県生まれ。東北大学国際文化研究科博士課程後期単位取得満期退学。修士(国際文化)。専門は英語教育、19世紀アメリカ文学およびアメリカ文学思想史。
著書に『Companion to English Communication』(2021年)ほか、論文に「エマソンとヒッピーとの共振点―反権威主義と信仰」『ヒッピー世代の先覚者たち』(中山悟視編、2019年)、「『自然』と『人間』へのエマソンの対位法的視点についての考察」(2023年)など。日本ソロー学会第1回新人賞受賞(2021年)。
趣味はピアノ、ジョギング、レコード収集。尊敬する人はJ.S.バッハ。
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