
明るい朝に
夏至のころであるから、日が伸びてきた。朝はかなり早くから明るくなるし、夜も遅くまで明るい。
その日、カーテンを閉めないで寝ていて、やけに眩しくて朝の4時頃に目を覚まし、なにげなくニュースを見た。そのニュースのショックですっかり眠気が吹きとんだ。その日は6月12日。アメリカ時間では6月11日。ずっと大好きで聴いていたザ・ビーチ・ボーイズ(The Beach Boys)のブライアン・ウィルソン(Brian Wilson)が亡くなったという。

『ブライアン・ウィルソン 約束の旅路 (Brian Wilson – Long Promised Road)』
つい数日前にも、彼の近況を追ったドキュメンタリー映画『約束の旅路(Long Promised Road)』を観たばかりだったので、ブライアンの訃報がなおさら切ない。
ビーチ・ボーイズの思い出
ザ・ビーチ・ボーイズを聴き始めたのは、ザ・ビートルズを聴き始めた頃と同じくらいだろうから、もう30年以上聴き続けている。当時の本や雑誌などで、ビートルズは“Fab4”という呼び方があるのに対して、ビーチ・ボーイズは“BB5”と呼ぶとかなんとか、それで5人組なのか、とか覚えたものである。
「サーファー・ガール (Surfer Girl)」や「409」などなど、明るい曲を最初は楽しく聴いて、「イン・マイ・ルーム (In My Room)」や「プリーズ・レット・ミー・ワンダー (Please Let Me Wonder)」あたりで、おや、胸が苦しくなるダークな美しさがあるぞ、という出会いがあり、次に、アルバム『ペット・サウンズ (Pet Sounds)』を聴いて、心の中のことだけで曲を構成するとはなんてすごいことだ!と腰を抜かした。

こんなビーチ・ボーイズ遍歴を経てきましたが、今回、やはりこの曲を聴かないわけにいかない。
当時のレコードはA面が「素敵じゃないか (Wouldn’t It Be Nice)」で、B面が「神のみぞ知る (God Only Knows)」だったのですね、と今のこの曲の人気ぶりと比較して軽くビックリ。アルバム『ペット・サウンズ』の曲順に沿っているのか、はたまた、「素敵じゃないか」のほうがヒットしそうな響きがしたのか。
ともあれ、当時、曲のタイトルに「神 (God)」を入れることがどれだれ勇気のいることだったか、とブライアンが回想するエピソードはあまりにも有名。ちょうどその頃、ビートルズのジョン・レノンによる「ザ・ビートルズはジーザスより有名」発言がアメリカで大炎上、そして、謝罪というニュースがあったため、「神」という言葉の使用にはピリピリしていたのである。今日の日本ではかんがえられない話である。ラーメンを食べて美味しかったら「神ってる」というような国である。日本人は無宗教というより不信心、と述べたジャーナリスト竹中労のことをふと思い出した。
神のみぞ知る
不朽の名曲「神のみぞ知る」はラブソングだけど、屈折していて美しい。
I may not always love you
ぼくはいつも君を愛するかはわからない
But long as there are stars above you
けれど、星が君のうえに輝いている限り
You never need to doubt it
疑う必要はないよ
I’ll make you so sure about it
そうだわって思わせてあげるよ
God only knows what I’d be without you
君がいないとぼくがどうなるか 神のみぞ知る
If you should ever leave me
万が一、君が離れていってしまったら
Well, life would still go on, believe me
まあ、それでも人生は続くんだろうね
The world could show nothing to me
世界は「無」みたいなものになるだろうね
So what good would living do me
そしたら、ぼくにとって生きている意味ってなんだろう
God only knows what I’d be without you
君がいないとぼくがどうなるか 神のみぞ知る

何度聞いてもキュンとくる。そして、いつ聴いてもキュンとくる。
ブライアンは旅立ったけれど、いまも変わらず大好きである。ちなみに、今回のトップ画像は、床に砂を敷き、その上にグランド・ピアノを置いていたブライアンへのオマージュである。そして、毎回、最後に書いている”Love and Mercy”って、ブライアンの1988年の曲名が元ネタであるのは、知ってましたね?
それでは、次の1曲までごきげんよう。
Love and Mercy, Brian
(文:亀山博之、写真:【トップ】グラフィックデザイン学科2年 伊藤あん、【その他】亀山博之)
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#かんがえるジュークボックス(第1回~第31回)

亀山博之(かめやま・ひろゆき)
1979年山形県生まれ。東北大学国際文化研究科博士課程後期単位取得満期退学。修士(国際文化)。専門は英語教育、19世紀アメリカ文学およびアメリカ文学思想史。
著書に『Companion to English Communication』(2021年)ほか、論文に「エマソンとヒッピーとの共振点―反権威主義と信仰」『ヒッピー世代の先覚者たち』(中山悟視編、2019年)、「『自然』と『人間』へのエマソンの対位法的視点についての考察」(2023年)など。日本ソロー学会第1回新人賞受賞(2021年)。
趣味はピアノ、ジョギング、レコード収集。尊敬する人はJ.S.バッハ。
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