第30回 遊びたガールによるフェミニズム入門~シンディ・ローパーの巻|かんがえるジュークボックス/亀山博之

コラム

【御礼】連日即完売

 新学期スタートダッシュの激動の4月もなんとか過ぎました。そして、このコラムと学食のコラボ企画第3弾「天国もハッとする中華ランチ」も大盛況のうちに終了いたしました。ありがとうございました。

学食入り口の看板
学食入り口の看板

 今回の「中華ランチ」は、連日あっという間に売り切れてしまったとのこと。食べることができなかったみなさまには申し訳ありませんでした。7月には学食2階とのコラボ企画を準備中です。お楽しみにお待ちください。

80年代のかほり

 さて、この4月の洋楽業界のニュースのひとつに、シンディ・ローパーの来日があった。彼女の最後の来日公演ということで、大変に盛況だった模様。わたしにとってのシンディ・ローパーは、小学生の頃に夢中で観た映画『グーニーズ』の歌を歌っている人。個性豊かなシンガーである。

シンディ・ローパー 日本盤
シンディ・ローパー 日本盤

 というわけで、今回は彼女の1983年の代表曲「ハイ・スクールはダンステリア」を聴きましょう。邦題よりも原題のほうが、確実に認知度が高いという、日本ではなかなか珍しい現象をともなった一曲。そう、原題は“Girls Want to Have Fun”だ(のちに「ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン」に改められている)。この歌で”want to”は“wanna”って短縮するんだということを学んだ人もいるかもしれない。ちなみにたとえば、“She wants to~”という文のように3単現の-sがある場合には、“wants to”は“wanna”と(一般的には)省略しないことは、期末テストに出るかもしれないので注意しておきたい。

能天気の裏に

 この曲は、ただただ楽しみたい女の子たちの気持ちを歌っているようでいて、それだけで終わらない。ジェンダー論、フェミニズム、女性史が取り扱う「抑圧された女性の立場」からの抵抗の声が、最終スタンザでチラッと聴けるというすぐれた構造を持っている。それに注意して聴くと、能天気な女の子の歌にとどまらないこの歌の魅力、くわえて、シンディ・ローパーの人気の秘密とパワーの源に気がつくことができるようになる。

 I come home in the morning light
 朝日を浴びながら帰ってくると
 My mother says, “When you gonna live your life right?”
 ママが「いつになったらちゃんとするの?」とお小言
 Oh mama dear, we’re not the fortunate ones
 ねえ、ママ、わたしたちは不幸な子たちなの
 And girls, they wanna have fun
 女の子たちは、楽しみたいだけ
 Oh, girls just wanna have fun
 女の子たちってのは、楽しみたいのよ

 「わたしたちは不幸な子たちなの(“we’re not the fortunate ones”)」という箇所は、親の監視のせいで思う存分に遊ぶことができないことを嘆いているように聞こえる。が、フェミニズムの視点から見てみると、同年代の男の子らは自由に遊べているのに、女の子はそうはいかない、こんな不平等が当然のようにあることを指摘しているとも受け取れる。シンディ・ローパーの魅力は、ただ険しい顔で不満を述べるわけでなく、寅さんよろしく「女ってぇのはつらいわねぇ」と笑い飛ばすだけのユーモアと余裕を持っていることにあるように思う。さて、続きをみてみよう。

 The phone rings in the middle of the night
 電話が真夜中に鳴ると
 My father yells, “What you gonna do with your life?”
 パパが「お前、人生どうするんだ?」って叫ぶ
 Oh daddy dear, you know you’re still number one
 ねえ、パパ、パパは今でもナンバーワンよ
 But girls, they wanna have fun
 けど、女の子たちは、楽しみたいだけ
 Oh, girls just wanna have
 女の子たちってのは、楽しみたいのよ

 That’s all they want
 それだけなのよ
 Some fun
 楽しみたいだけ
 When the workin’ day is done
 平日を過ぎたら
 Oh, girls, they wanna have fun
 女の子たちは、楽しみたいだけ
 Oh, girls just wanna have fun
 女の子たちってのは、楽しみたいのよ

 Some boys take a beautiful girl
 男の子ってのはキレイな子を連れ歩くと、
 And hide her away from the rest of the world
 そして、その子を世界から隔離させちゃうのよ
 I wanna be the one to walk in the sun
 わたしは太陽の下を歩いてたいの
 Oh, girls, they wanna have fun
 女の子たちは、楽しみたいだけ
 Oh, girls just wanna have
 女の子たちってのは、楽しみたいのよ

 上記のスタンザに注目である。70年代アメリカのウーマンリブ、あるいは、女性解放運動の勢いを、シンディ・ローパーはしっかりと引き受けているのがわかる。「女性は男性の所有物ではない」という主張を明るく示すのだ。「女の子はただ楽しみたいだけ」という能天気な欲求は、不当に女性を所有物として楽しもうとする男性よりも、はるかに健全な欲求であるということまでも同時に証明するという離れ業を軽やかに披露する。

 They just wanna, they just wanna
 女の子たちは、ただ
 Girls, they want, wanna have fun…
 女の子たちってのは、楽しみたいのよ・・・

 さあ、爽やかな季節がやって来る。毎日を楽しみながら過ごそうではありませんか。

 それでは、次の1曲までごきげんよう。
 Love and Mercy

(文・写真:亀山博之)

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亀山博之(かめやま・ひろゆき)
亀山博之(かめやま・ひろゆき)

1979年山形県生まれ。東北大学国際文化研究科博士課程後期単位取得満期退学。修士(国際文化)。専門は英語教育、19世紀アメリカ文学およびアメリカ文学思想史。

著書に『Companion to English Communication』(2021年)ほか、論文に「エマソンとヒッピーとの共振点―反権威主義と信仰」『ヒッピー世代の先覚者たち』(中山悟視編、2019年)、「『自然』と『人間』へのエマソンの対位法的視点についての考察」(2023年)など。日本ソロー学会第1回新人賞受賞(2021年)。

趣味はピアノ、ジョギング、レコード収集。尊敬する人はJ.S.バッハ。