想像の世界をリアルにする立体造形の仕事/アールスタイル株式会社 造形師・卒業生 谷地岳国

インタビュー 2021.04.13|

美術科・彫刻コースを卒業し、立体造形の会社に就職した、谷地岳国(やち・たけくに)さん。有名テーマパークのパレードカーやアトラクションをはじめ、実物大の大型ロボットやヒューマンスケールのフィギュアなどを手掛けています。大学時代の学びをどのように生かして仕事に取り組んでいるのか、埼玉県の工場を訪ねてお話をお聞きしました。

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確かな技術力で、ワクワクするような造形を作り出す

――現在のお仕事の内容を教えてください

分かりやすいところだと、ディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、USJ)などのテーマパークで使われる造形物をはじめとして、いろいろな立体物を作っています。イベントやアトラクションで使われる大きいものもありますし、人間サイズのフィギュアも作ります。パレードカーは毎年行っている仕事の一つですね。

もともとこの会社は「製缶(せいかん)」といって、溶接や車のボディ骨組みなど機械関係の鉄骨などをを作っている会社でした。そこに新たに外側の造形を作る部署ができて、今のようにパレードカーを丸ごと作れるようになりました。同業他社の多くは、鉄骨と造形のどちらかに特化していて、足りない部分を別の会社に発注しているようで、当社のやり方は珍しいみたいですね。僕は外側の造形物を作る仕事をしています。

アールスタイル株式会社 造形師 谷地岳国さん インタビュー中の様子

――一つの会社で鉄骨と造形の両方をまとめて受注できると、どういうメリットがあるのでしょう?

第一に、コストが下げられます。あとは、社内でやり取りできるので、構造上のことなどを聞きながら制作できる点は利点だと思います。当社で作っているのは全て一点もので、自分たちが作ったと誇れるものです。溶接と機械系の技術が合わさって、他社にできないものを作れるのが当社の自慢です。

これだけ大きな取引が継続的に続いているのは、専務が20代の時にテーマパークの裏方で働いていた経験があるからだと聞いています。オープンして間もないテーマパークで、何もかもが手探り状態で苦労してきた現場経験が信頼され、現在の仕事にまでつながっているようです。

造形をするときには、3Dプリンターで模型を出力して、検証して少し大きいものを作り、それから実物大で作るのですが、専務は3Dのデータ作成もできますし、とてもパワフルな方です。

アールスタイル株式会社 造形師 谷地岳国さん 打ち合わせスペースに飾られていた、3Dプリンターで出力された模型

――尊敬できる上司や先輩が社内にいるというのはいいですね

はい。若い人よりもベテランが多いのですが、怖い人がいるわけでもなく(笑)。気軽になんでも聞ける雰囲気と、落ち着いてものづくりができる環境で、働きやすいです。

――造形という仕事に取り組む上で、大切にしていることはありますか?

お客さんの要望にできる限り応えていくことです。当社のお客さんというのは、まずは造形のデザイナーと、テーマパークからの発注であればそこに遊びに行く方々のことです。

極力、デザイナーさんがやりたいことを実現するために、実際に実現できるかどうかを検証し、データで計算した上で僕の方に仕事として降りてきます。または、上司から社員に「こうしたい」という要望や相談の形で降りてくるんですが、まあ、半分以上は無理難題というか(笑)。それでもできるだけ応えていかなければなりませんし、その辺は仕事を進行しながら調整していくことになります。今までやったことがないものを作ることになるので、実際に立体物を作りながら、ああでもないこうでもない、というふうに試行錯誤して進めていきます。最初にあったデザイナーの要望、理想からはどうしても遠くなってしまうんですが、できる限り、やりたいことは可能にするつもりでやっています。

アールスタイル株式会社 造形師 谷地岳国さん 作業中の様子

――イメージを形あるものにしていくのは大変そうです

実現可能な範囲でできるように消去法で進めたりしますし、「これは無理です、でもこういうのはできます」という提案もしたりします。僕は一社員に過ぎないので、社員に意見を聞きつつ、噛み砕いてまとめ、デザイナーさんに相談してやりとりを進める上司の方々の苦労の方が大きいんじゃないかと思います。

――仕事をしていて、いちばん嬉しかったこと、やりがいに感じたことは?

USJの『モンスターハンター』のアトラクションで、リオレウスという竜の立体を作ったときですね。首が左右に稼働して火を噴くようなモーションがあったりするんですが、きちんと動いて壊れないものを作るのに苦労しました。その分、完成して実際に動いているのを見たときには達成感を感じました。

やはり、納品した現場に行って外から見たりすると、実感が湧いてきます。造形をやっている会社は他にもあって、USJもディズニーランドも日本各地の業者に発注しているので、現場でものを見ると「これはあそこの企業がやっていたな」と、分かったりします。業界自体が狭いというかそれほど企業数が多くなく、同じ仕事に関わって、知っている人だったりもするので。そういう、お客さんとは違う目線でテーマパークを楽しめるのも面白いですね。

アールスタイル株式会社 造形師 谷地岳国さん 細かなパーツも一つ一つ手づくり

――「中の人」ならではの楽しみ方ですね。メンテナンスなどで現場に入ることもありますか?

はい。規模が大きいので、工場で作って一度も組み立てないまま、現場に持っていって初めて組み立てることもあります。基本的に、使用期間中に壊れるというのはあり得ないのですが、壊れたら直さなければなりませんし、大抵はその前のメンテナンスでなんとかします。基本的にはお客さんのいない夜間に行いますが、たまにテーマパークで、突然壁ができて通れなくなっているのを見たことないですか? あれはバリケードをあらかじめ作って、裏では職人さんが作業していたりするんですよ。

――これまで手がけた規模の大きな仕事は、ほかにどんなものがありますか

前に所属していた会社で作った実物大の『パトレイバー』、今の会社だと『トランスフォーマー』ですかね。『トランスフォーマー』のバンブルビーとメガトロンと2台作りましたが、それを作るために高さが必要だったので工場も作りました。社員みんなで鉄骨を組んで、よじ登って壁を貼ったりして。

アールスタイル株式会社 造形師 谷地岳国さん 造形の仕事に用いる道具

――工場も手づくりなんですか!?

はい、前はここは更地でした。内装はしてませんし、床も平らじゃなくて。みんな、平らにしてくれよといっていますけど。あと、出入りの幅がギリギリ過ぎて、社員から苦情が出てます(笑)。

――すごいですね。文字通りスケールの大きな仕事で。感動が大きそうです

ずっと作っていると、感覚が麻痺してきちゃうんですよね。でもこんなふうに改めて話したりすると「そうだよね、すごいことしてるよね」と、実感します。

フィギュアの原型師になりたいという夢

――そもそも、なぜ造形の仕事をしようと思ったのですか?

僕はもともと、ゲームとかアニメが好きで、高校生の頃からフィギュアの原型師というものになりたかったんです。それで彫刻コースに進みました。そして就職を考えるタイミングでいろいろ調べて、等身大のフィギュアを作る造形屋というものがあることを知って。「すごいな!」と思って、すぐに就職活動を始めました。

アールスタイル株式会社 造形師 谷地岳国さん 制作途中のエヴァンゲリオン初号機の胸部

求人はどこにも出ていなかったので、まずはぶつかってみようと思い、いろいろな造形屋に電話をかけてみました。そうしたら、ほぼ全ての企業から社員を採用する余裕がないと断られました。アルバイトでもいいので、と食い下がったんですが、「君、学生でしょ。こっち来れるの?」と言われたりして。造形屋の多くは関東にあったので、大学に通いながらあるアルバイトをするのは無理な話だったのですが、作ってみたいという思い一つで、自分なりに就活を進めました。そのなかで、1カ所だけ「来てみてよ」と言ってくれたんです。そして面接をしたら、すぐに社員として採用してくれました。そのおかげで、今のように楽しい仕事ができています。

――彫刻コースで学んだことは役立っていますか?

それはもちろんです。僕がいちばん経験できてよかったと思うのは、モデルさんがいてきちんと人体造形をしたことです。今の時代は3D ソフトで形を作る人がいて、本当にきれいに形ができ上がるんですが、出力したときに不自然な印象になる場合があります。例えば人体だったら、肩が変な感じになっていたりして、必ず少しだけ直しが入るんですよ。そういう時に、基本的な芸術の知識と能力がないと直せませんし、そもそも違和感に気付けなかったりします。大学で彫刻を学び、いろいろな素材を触って削ったりしたことが、本当に今の仕事に生きてるなと思います。

アールスタイル株式会社 造形師 谷地岳国さん お仕事中の様子

美大を卒業してこの仕事に入ってくる人のなかでも、造形をやっている人はそんなに多くありません。大学で教えるようなことを企業で教えるのは大変なので、自分が大学でしっかり学べたことは確実に力になっていると感じています。

――今後の展望や、やってみたいことはありますか?

実は今、もう挑戦していることがあります。高校生の時からフィギュアを作りたいという気持ちがあって彫刻コースに進学し、造形の仕事に就いているわけですが、やっぱり「フィギュアを作りたい」という気持ちが強いんですよね。なので、プライベートでフィギュアを作り、ワンダーフェスティバルというフィギュアの祭典のようなイベントに出展しました。まだ一度だけなので、継続していきたいと思っています。

今の仕事も面白いのですが、自分が一番したいことはなんだろうと考えると、それはやっぱりフィギュアの原型師なんです。ただ、原型師も仕事にしてしまうと、やりたいことはできないだろうとも思うので、趣味の範囲でやるか悩んでいるのと同時に、どこまでできるか挑戦している最中でもあります。

――仕事を続けながら、高校生のときからの夢を育て実現していたんですね。では最後に、これから芸工大を目指す方や、高校生にメッセージをお願いします

僕がしている造形の仕事は、決まったマニュアルがありません。だから常に視野を広げて、いろいろなものを見て、調べて、周囲の人とコミュニケーションを取れる状態にしています。自分だけの作業になってしまうと、うまく仕事が回らなかったりするんです。技術や知識を学ぶことと同じくらい、伝える能力も大事だと感じています。

アールスタイル株式会社 造形師 谷地岳国さん インタビュー中の様子

皆さんにやりたいことがあったら、それはもう本気で取り組んでいいと思います。でもそれだけじゃなく、他にも視野を広げて、浅い興味でも軽く調べてなんでも学ぶ姿勢があると、できることの幅がどんどん広がっていくと思うんです。というのも、僕は大学時代に後悔していることがあるんです。彫刻はもちろん学んでいたのですが、演習以外は遊んでしまっていて。学内にはいろいろなプロジェクトだったり、個人で展示している人もいたのに、そういうことに参加することを極力避けていたんですね。もし、遊んでいた時間を将来につながることに当てられていたら、技術だけでなく、感性ももっと磨けたかもしれないなと。だから、「広い視野で」というのは、自分自身に対して言っていることでもあるんです。

――大学では自由な時間の使い方ができますからね。谷地さんの大学生活は楽しかったですか?

超楽しかったです(笑)。

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大学で学べることはもっとあったはず、と小さな後悔をにじませた谷地さん。それは現在も、技術を高め知識を吸収し、もっと良いものを創作していきたいという、欲求と向上心があるからこそ。彫刻コースで学んだ基本的な知識と能力、美術の感覚を土台に、造形を自分の道として歩き続けている姿に心強さを感じました。
(撮影:永峰拓也 取材:上林晃子、企画広報課・須貝)

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東北芸術工科大学 広報担当
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