歴史遺産学科Department of Historic Heritage

小川達生|香炉形土器における使用痕の研究
山形県出身
佐藤祐輔ゼミ

 香炉形土器の構造の理解において宮の前遺跡 大洞C1香炉形土器図1に示されるように、香炉形土器は「橋状部」「体部」「脚 部」の3要素で構成される。特に橋状部に開けられた「窓」は、内部の火の状態を視認し、酸素を供給するための機能的な設計である。本研究では、この複雑な構造がどのような燃焼を目的としていたのかを分析の起点とした。釣手土器から香炉形土器は、中期に栄えた「釣手土器」から後期・晩期の「香炉形土器」への変遷を示している。分布の中心が関東から東北北部へと移動する過程で、土器はより洗練され、最終的には注口土器と融合する「キメラ形態」へと至る。

図2では、東北地方における香炉形土器の出土数統計と、実物観察に基づくスス付着の地域差を示している。調査の結果、岩 手・青森・秋田の北部3県に分布が集中している実態が明らかとなった。また、北小松遺跡(宮城)のように強いススが残る個体と、宮の前遺跡(山形)のように穏やかな痕跡に留まる個体が存在しており、同一器種内でも用途や儀礼の強度に多様性があったことを裏付けた。 実験による燃焼痕跡の再現視点として図 3 は、レプリカを用いた燃焼実験の様子である。枯れ木、松かさ、油灯(脂質)など、当時の環境下で入手可能な燃料を用い、土器内面に残るススの付着パターンを比較した。実験結果: 枯れ木のような強い炎では内面が全面的に黒変し、実際の遺物(図 1 等)に見られる限定的なススとは一致しなかった。結論: 香炉形土器は、脂質を用いた「穏やかな灯火」または「発煙」を制御するための道具であり、日常の照明と非日常の儀礼を兼ね備えた存在であったことが実証された。

1.宮の前遺跡 ⾹炉形⼟器 (筆者撮影)

2.⾹炉形⼟器 東北地域集成

3.作製した⼟器 底⾯結果