文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

吉本美穂|軸装に用いる木材の適性比較ーヤニの発生と寸法安定性に着目してー
千葉県出身
杉山恵助ゼミ

 掛軸や巻子といった軸装作品は、広げて使用、巻いて保管の形態をとるもので、巻くことで本紙の劣化抑制につながるとされている。この際に必要となるのが、巻き終わりを保持する八双と巻き納めの中心となる軸木とよばれる部材である。これらの材には、木材や金属、紙など様々なものが使用されており、その中でも、木材は伝統的な材である。また、使用される木材の種類は施工者によって異なり、同材に対する評価も一様ではない。(図1)

本研究では、文献調査や聞き取り調査から実際に軸木や八双に用いられている材や現場における評価を知り、実験から各材のヤニの発生や寸法安定性の点に着目して適性を比較することを目的とした。

表具の技法書や歴史書による文献調査の結果、杉、ヒバ、米ヒバ、ヒノキ、ラワンが使用材としてあげられた。特にヒバ、ヒノキ、ラワンについては使用すべきでないとする文献もあり、評価の不一致が見られた。また、昭和40年から令和5年に博物館や文化庁などにより発行された62冊の修理報告書を参考に使用材を調査すると、記述のあるものはわずかであったが、修理前後のどちらでも杉の使用が多い傾向があり、その他にもヒノキや桐の使用が見られた。また聞き取り調査では、現在の使用材について杉、ヒバ、米ヒバがあげられたが、杉以外ではメリット・デメリットの双方があがり、使用する方としない方のどちらの意見も伺われた。  実験は、山形県産杉、吉野杉、青森ヒバ、米ヒバ、吉野産ヒノキ、山形県産赤松を17×17×200mm程度の角材にしたものを実験材とし、高温かつ湿度が変化する環境と高温環境の2条件で実施した。(図2)その結果、ヤニやアクなどの汚損原因が発生しないものは吉野杉のみとなった。変形では、ヒノキが最も安定しており、米ヒバも比較的安定した数値となった。一方、使用材として頻出した吉野杉は、最も変形挙動が大きくなった。(図3)これらの結果から、使用材は修理対象となる作品の性質や使用環境をふまえて選定する必要があり、また、しっかりとした乾燥工程を挟んでから使用することが重要だと考えられる。しかし、今回本実験で使用した試験材は、実際の使用材と異なる可能性があり、木材の個体差や産地による違いも大きいため、今後は販売されている軸木や八双、表具師や修理工房で使用されている材を用いた実験を行うことが求められる。

1. シミが発生している軸木

2. 実験の様子

3. 実験後ヤニやアクが発生した材