文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

堀士絢愛|日本刀の手入れに用いられる各種油の防錆効果及び使用実態に関する研究
千葉県出身
保存科学ゼミ

 本研究の目的は、日本刀の手入れに用いられている油を比較し、それぞれの特徴を整理することで、保存環境や使用状況に応じた油を考えることである。また、日本刀を所持する個人や、文化財を管理する現場にとって参考となる情報を示すことを目指している。

日本刀は鉄を材料として作られており、錆が生じやすい性質を持つが、数百年前に作られた日本刀が現在まで美しい姿を保っているのは、歴代の所有者や管理者が丁寧な手入れを続けてきたためである。日本刀を良好な状態で保存するためには、本来、温度や湿度が安定した環境で保管することが重要であり、そのような条件が整えば、必ずしも油を塗布する必要はない場合もある。しかし、博物館や収蔵庫だけでなく、個人が日本刀を所持している例も多く、常に理想的な保存環境を維持することは容易ではないため、刀身を湿気や汚れから守る手段として油を用いた手入れが行われてきた。

はじめに、博物館や美術館への聞き取り調査を行い、日本刀の手入れに使用されている油の種類や使用目的、管理環境との関係について調査した。その結果、すべての館で油を用いた手入れが行われており、長期保存を重視する場合と、展示や取り扱いの頻度が高い場合とで、選択される油に違いが見られた。(図1)

次に、防錆効果を検証するため、椿油・丁子油・鉱物油・シリコーン油を塗布した試料と、油を塗布しない試料を高温高湿環境下に置き、比較実験を行った。(図2)その結果、椿油及び丁子油では安定した防錆効果が確認され、一方で鉱物油及びシリコーン油では軽微な錆が認められたものの、扱いやすさの点で利点が見られた。無塗布の試料では短期間で著しい錆が発生した。(図3) これらの結果から、油の塗布は日本刀の防錆における有効な手段の一つであり、油の種類によって特性が異なることが明らかとなった。実際の手入れでは、防錆性能だけでなく、保存環境や展示頻度、作業性などを踏まえ、所持する日本刀の状態や管理条件に適した油を選択することが重要である。

1. 博物館・美術館が使用する油の現状

2. 防錆効果比較実験の様子

3. 実験後写真