西野玄人|視覚障がい者を対象とした仏像の素材と造形についての教育普及
埼玉県出身
宮本晶朗ゼミ
本研究の背景として、近年、博物館や美術館において視覚障がい者を対象に、作品に触れて鑑賞するワークショップが実施されている点が挙げられる。文化財を扱う事例ではレプリカが用いられることが多く、触察によって形状を理解することが可能である。しかし、それらの多くは3Dプリンタによって出力されたものであり、形態の把握には有効である一方、仏像本来の素材感や制作技法までを理解することは難しいという課題がある。
本研究の目的は、視覚障がい者に対し、仏像に用いられている素材や造形について、授業を通して理解を促し、文化財や仏像に対する興味関心を高めることである。
研究方法として、山形県立山形盲学校の中学生4人を対象に仏像についての授業を実施した。授業で使用する教材を先立って制作した。題材には山形市・慈光明院蔵阿弥陀如来坐像を取り上げ、木彫で制作した右手先のレプリカ(図1)と、仏像表面に施されている漆の工程を理解するための工程手板(図2)を制作した。本来工程手板は1枚で全工程を見られるよう制作するが、今回は大きく触って欲しいため1枚1工程とした。漆の工程の中でも変化がわかりやすい布張り、錆付け、錆付け(研ぎ)、塗りの4工程を制作した。授業(図3)では、冒頭に仏像について簡潔に説明をし、制作した教材を実際に触察しながら、仏像の素材や造形、漆の工程について説明を行った。授業後に実施したアンケート結果から、生徒は授業内容を理解しており、文化財や仏像に対する興味関心が高まったことが確認された。そのため、視覚障がい者は、文化財に興味関心がないのではなく、文化財に関する知識や経験が少ないため、興味関心につながりにくかったのではないかと考える。 以上より、文化財のレプリカを用いた教育普及は、視覚障がい者にとって有効であると考えられる。特に、仏像の素材や造形、制作技法の理解を促す上で、触って鑑賞できる教材は効果的であり、興味関心を喚起する点において、本物と同じ素材を用いたレプリカは、3Dプリンタで制作したレプリカよりも優位性を有するといえる。

1. 慈光明院像の右手先の模刻

2. 漆の工程手板

3. 授業風景