文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

長澤莉子|一般住宅における襖の構造と使用材料の実態調査
山形県出身
杉山恵助ゼミ

 襖とは、骨格の上に幾重にも和紙を張り重ねて作られる日本独自の建具である(図1)。古くは表具師による手仕事によって製作されてきたが、住宅需要の増加に伴い、大量生産に適した構造へと簡易化された襖が登場した。しかし、こうした現代の襖については構造や材料に関する記録が乏しく、それらが美術作品として評価される場合や、使用された建物自体が文化財指定を受けた場合保存修復に困難が生じる可能性がある。実際、アートギャラリー北野の「ふすま絵プロジェクト」や、ハリマ産業株式会社による現代アーティストとの協働など、現代の襖に絵画表現が施された事例も確認されている。よって本研究は、一般住宅における襖の構造および使用材料の実態を明らかにし、多様化した現代の襖を記録することで、将来的な保存修復に資することを目的とする。

襖の構造が多様化した背景には、住宅の西洋化と戦後の深刻な住宅不足がある。特に戦後の住宅不足解消に公営住宅法が施行されて以降、短工期・低コストでの住宅供給が求められ、襖にも規格化および量産化の要請が生じた。従来の本襖は表具師による手仕事を前提としており、大量生産には適さなかったためこの時期以降襖全体の構造簡略化が進行した。 伝統的な本襖は、木製組子を下地とし複数層の下張りを施す構造を持ち文化財に多く見られる。下張り層は、木材と和紙という異なる素材間の性質差を緩和し、調湿性や耐久性を高める役割を果たしており、張替えを前提とした構造である。一方、現代の襖は下地に着目すると組子襖、板襖、量産襖の3種に分類されそこからさらに7種類に細分化されることが明らかとなった(図2)。組子襖には本襖、チップボール襖、ペーパーコア襖が含まれ、いずれも本襖同様木製組子を下地とする。板襖は単板を下地とした襖で単板襖、戸襖が属する。量産襖には段ボール襖や発泡スチロール襖があり、骨組みを持たない工業製品を下地として完全な量産が可能である。これらの襖は本襖では6種8層の下張りが施されるのに対し、最大でも3層にまで簡略化されている。(図3)この構造変化は製作効率とコスト削減を実現した一方で、調湿性や修復性の低下をもたらした。外観が類似しているにもかかわらず内部構造が大きく異なる現代の襖について、その構造的差異を把握することは、適切な保存修復を行う上で不可欠であり、本研究はその基礎的知見を提供するものである。

1. 襖の基本的な構造

2. 下地別襖分類

3. 襖構造図