髙橋泉香|紙史料の修理に関する研究
福島県出身
杉山恵助ゼミ
紙史料修理では、虫害等により生じた欠失部分に対して補修紙を用いた補填処置が施され、これにより史料の安定化が図られる。日本で行われる代表的な修理方法には、欠失部分に対して手作業で補修紙を補填する「手繕い(てつくろい)」、欠失部分を手繕いで補填した後に、本紙裏面から裏打ち紙を貼付ことで本紙を補強する「裏打ち(うらうち)」、欠失部分に紙料を流し込み本紙へ直接紙を形成することで機械的に補填する「漉嵌め(すきばめ)」がある。紙史料の修理では、原本が持つ文字情報以外の痕跡も原本の来歴を示す重要な要素となるため、元の風合いや、形状等を損なわない修理が求められることが多くある。そのため、史料の状態や目的に応じて慎重に修理方法を選択する必要がある。
本研究では、修理技術の特徴を比較検証すると共に、先行研究では具体的に言及されていない「修理方法が有効となる適用場面」について文献調査の結果と照らし合わせながら考察し、修理方法を選択する際の一助となるような知見を得ることを目的とした。
実験では、手漉きの楮紙に欠失を再現したものを試験片とし「手繕い」「裏打ち」「漉嵌め」の比較実験を実施した。結果、「手繕い>裏打ち>漉嵌め」の順に作業の手間がかかり、「漉嵌め>手繕い>裏打ち」の順に作業難易度が増す傾向にあることが示唆された。また、「漉嵌め」は本紙に対して補修紙の繊維が最も馴染んだが、今後修理を必要とする場合に除去が困難になることが予測されるため、可逆性の問題も示唆される結果となった。 以上の結果から、「手繕い」は手作業で行うため作業者により仕上がりに差が生じやすいものの、修理前後での本紙の変化が小さく、臨機応変な対応が可能なことから最も汎用性が高い方法と結論づける。一方で、「裏打ち」及び「漉嵌め」は、「手繕い」と比較すると作業者による仕上がりに差が生じにくく、作業効率に優れていることから劣化・損傷の進行した史料に対して有効であると考えられる。しかし、いずれも修理過程において本紙へ水分を与えるため、水耐性の低い史料の修理には適さず、また、修理前後で本紙の風合いの変化も見られるため、修理方法の選択の際には十分な検討が必要と結論づける。

1. 手繕い

2. 裏打ち

3. 漉嵌め