大島祈|山形県における鏝絵技術の調査と手板製作を通した記録
新潟県出身
宮本晶朗ゼミ
以上の背景を踏まえて、鏝絵に関する詳細な情報の記録の一助となることを目的として、鏝絵の歴史に関する文献調査、鏝絵制作を行う職人への聞き取り調査、山形県内の鏝絵の調査を行い、得た情報をもとに工程手板の制作を行った。
江戸時代に大きく発展した鏝絵は近代にはいると建築様式の変化などから制作の機会が減少し、時代の流れとともに新たな作品は生まれにくくなっていった。しかし一部地方では近代以降制作が盛んにおこなわれていたようで、山形県にも明治・大正時代以降に制作された鏝絵がいくつか残っている。
聞き取り調査では現在山形県内で鏝絵の制作を行う職人が株式会社青木左官の青木優氏一人しかいないことがわかった。
作品調査では山形県内に現存する鏝絵の一つの例として恵比寿大黒天図鏝絵に対してマイクロスコープを用いた観察などを主に行い、鏝絵表面の損傷状態や鏝絵部分を形作るまでの土の層の構造について情報を得た。同作品は木材によって作られた骨組みの上に土を塗り重ね、扉の状態を形作っていた。絵画部分の彩色の損傷状態からは漆喰を塗った上から絵具を塗るように彩色がされている様子が見て取れた。
手板の制作は聞き取り調査を行った青木氏から分けていただいた土や漆喰を用いて行った。青木氏に見本となる手板を制作していただき、そちらの制作手順に倣って簡易的なものを制作した。見本の手板にはなかった彩色に関しては、顔料と糊による彩色(図2)と色漆喰(図3)による彩色の2種類を行った。
工程手板の制作手順は粘土状の土のみを塗りつける荒付け、土と砂を混ぜ合わせたものを塗りつける中付けと中塗り、その上に薄く塗る漆喰の層に分かれている。彩色は顔料と糊によるものは漆喰層を塗りつけた後に行うが、色漆喰によるものは、中塗り層の上にそのまま色漆喰を塗りつけた。 手板の制作に使用した材料の比率などについては調査を行った職人の方の経験をもとにした感覚によるところが多く、本研究で得られた情報は職人の方が持つものの一部に過ぎない。本格的な鏝絵技術の記録には鏝絵の制作にかかわる左官技術への理解と長い時間をかけた追加調査が必要になると考える。

1. 作品調査 マイクロスコープを用いた作品調査

2. 工程手板 顔料と糊による彩色

3. 工程手板 色漆喰