文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

[最優秀賞]
大鹿七海|ヘマタイト顔料の製法と絵画技法との相性について
岩手県出身
中右恵理子ゼミ

 ヘマタイト顔料とは、酸化鉄を主体とする赤色無機顔料である。その中でも、本研究で主題となる顔料は、赤鉄鉱など鉱石から作られた鉱物性ヘマタイト顔料である(図1)。文献調査によれば、この顔料はフレスコ画以外の展色材を使う画法に適していないことや油彩画作品など使用報告例が少ないことがわかっている。また、顔料の製作手法や彩度向上の研究も行われているが、鉱物性ヘマタイト顔料を対象としたものは少ない。そのため、ヘマタイト顔料の展色材との相性に着目し、フレスコ画のみ適しているとされた理由や一部の油彩画に重色等で鉱物性ヘマタイト顔料が使用された理由を明らかにすることを目標とする。本研究における「相性」とは、乾燥前後の色変化量や付着性を基準とする。

本研究では、鉱物性ヘマタイト顔料の作製法の比較や乾燥前後の色変化量の測定 (図2)、重色効果の測定、付着性の評価(図3)を行い、絵画に用いられたヘマタイトについて知見を増やし、過去に行われた顔料の製法と展色材との相性を知ることを目的とした。 研究結果から、ヘマタイト顔料と相性の良い展色材は、乾燥前後の色変化量や付着性から、卵メディウムという結果となった。鉱物性ヘマタイト顔料がフレスコ画で使用される顔料とされたのは、乾燥前後の色変化量が少ないことが理由と考えた。油彩画での鉱物性ヘマタイト顔料の使用については、下層の影響が土性よりも少ない鉱物性を使用して、深みを出しつつ暗くなりすぎない色として使用されていたと考察する。鉱物性ヘマタイト顔料の使用例が少ない理由としては、鉱物性ヘマタイト顔料の生成量の少なさや手間、土性ヘマタイト顔料が主流として使用されている時期に、あえて鉱物性ヘマタイト顔料を使用する人が少なかったためではないかと考察する。今後の展望として、本研究は条件や対象を一部に絞って実験を行ったため、対象範囲を広げた研究が必要と考える。また、文化財に用いられる材料としてもさらなる研究が必要だと考える。


中右恵理子 准教授 評
「継続は力なり」という言葉があるが、大鹿さんの卒業研究はまさにそれを体現しているといえる。ヘマタイトと出会ったのは高校時代とのことなので、それから本学に進学し、非常に深い「探求心」とそれを具体化し実行する過程での「正確性」と「妥協しない」姿勢が、卒業研究という形で結実したのだと考える。 
ヘマタイトは華々しく注目される顔料ではないが、古代から身近に使用されてきた馴染み深い顔料である。しかし各地域で身近に使用されているがゆえに呼称も様々で統一されておらず、改めて絵画技法上の性質に注目した研究も多くはない。ヘマタイトという身近であるがよく知られていない顔料を、非常に丁寧に整理、分析し、説得力のある情報を示した成果は意義が大きい。 
これからも探求心と丁寧に取り組む姿勢を持ち続け、社会に出て様々な分野で活躍されること願っている。最優秀賞おめでとう。 

1. ヘマタイト顔料

2. 乾燥前後の色変化量の実験サンプル

3.各サンプルのクロスカット試験結果