文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

飯村こころ|揉みから紙の剥落止め処置に関する研究-接着剤の比較検討-
茨城県出身
杉山恵助ゼミ

揉みから紙は、和紙に二層の彩色を施し、揉むことで模様を生み出す技法を特徴とする装飾紙である。不規則な模様が特徴であり、その不完全さが侘び寂びの精神に通じるものとして、茶の湯の世界において好まれてきた。揉みの技法は19種類に分類され、用途に応じて使い分けられている。一方で、絵具層が粉状化・剥落しやすいという性質を持ち、掛軸や襖に使用する際には、表面から接着剤を用いた「剥落止め」処置が必要となる。

本研究では、劣化が進みやすく絵具層の剥落量が多い揉みから紙に対し、表面の絵具層を安定化させるための適切な剥落止め用接着剤を検討することを目的とする。研究方法として、文献調査および聞き取り調査を通して揉みから紙に関する基礎的知識と現状を把握するとともに、膠・ふのり・ドーサ・パラロイドB72の4種の接着剤を用いた比較実験を行った。

文献調査からは、接着剤の選定に関する記述が文献ごとに異なり、揉みから紙の剥落止めに最適な接着剤が断定されていないことが明らかとなった。また、聞き取り調査からは、剥落止めに使用される接着剤に明確な基準が存在せず、技術者や現場ごとに選択方法や対応が大きく異なる実態が確認された。比較実験では、4種の接着剤について濃度を変えて剥落止めを施した計17種類のサンプルを作製し、目視による変形および色変化の評価、固着力評価、色差評価を行った。その結果、高濃度ほど視覚的影響を受けやすく色変化が大きくなる傾向が確認されたほか、膠は固着力に優れる一方で濃度選択が重要であること、パラロイドB72は濃度に関わらず色変化が大きいことなど、接着剤の種類および濃度によって固着力、色変化、形状安定性に差異が生じることが明らかとなった。 本研究の結果から、揉みから紙に対する剥落止め処置においては、揉みから紙自体の状態や置かれている環境に応じて、適切な接着剤を選択する必要があることが示された。今後の展望としては、異なる塗布方法や使用環境、接着剤を想定したサンプルを用いた検討を行うことで、揉みから紙に対するより実践的な剥落止め処置の指針を構築することが課題である。

1. 揉みから紙の表面(小揉み)

2. 揉みから紙の表面(菊揉み)

3. 表面に剥落が見られる揉みから紙