大学院Graduate School

[優秀賞]
萩中茉優|俎上のヴィーナス
石川県出身
1220×2000

学部時代から銅版画技法の一つ「メゾチント」の黒に惹かれ、技法研究と制作を行っています。メゾチントは、銅版を無数の点描によって覆い尽くし、砂目状にした下地を研磨し陰影を操作する技法です。この点描の密度や規則性が見る者の印象を大きく左右し、手法ごとにわずかに異なる質の黒を作り出します。本作は大学6年間の試行錯誤を通した中で、最も美しい黒を作り出せると考えた方法で制作しました。


青山ひろゆき 教授 評
本学生は、メゾチント技法の根源に立ち返り、目立て道具ベルソーの時代的差異と、それに伴う黒の生成・質感の変容を学術的に検証しつつ、卓越した版画表現へと結実させた。展示には、銅版や目立て痕の比較サンプル、試刷、工程資料が併置され、研究のプロセスが作品の深い階調として説得力をもって立ち上がる。大画面に広がる黒は、単なる暗部ではなく、粒子の密度と呼吸を孕む「場」として提示され、闇に沈む黒と鋭い光が拮抗する。緻密な描写は像の緊張を支え、鑑賞者の視線を画面内に引き込む。黒の多様性を手法の差として可視化した点も秀逸である。資料の乏しい領域で自らドラフトを執筆・編集した主体性、版画協会展・大学版画展での最高賞に象徴される実践力、制作と研究を同等の水準で両立させた到達は、大学院で示されるべき理想的成果である。今後の深化と展開を強く期待する。