[優秀賞]
有馬治英|補完する都市
髙谷廉ゼミ
この作品は、駅空間に即席で貼られた「補完サイン」を記録したアートブックです。工事やグローバル化など駅外部の要因と、設計されたサインデザインに足りない駅内部の要因に対応して生まれたこれらのサインが、どのような意図で誰のために貼られたのか、その背景に想いを馳せながら読む構成になっています。空間を煩雑にさせる存在という認識にとどめず、誰かの「わからない」を補完した痕跡と捉えられるのではないでしょうか。
髙谷 廉 准教授 評
卒制中間発表における「何者かがサインを補完しているのです」という有馬さんのプレゼンテーションは、教員の心を強く掴みました。海外ではあまり見られない「補完するサイン」は、日本特有の現象と言えるでしょう。本作品は、「理解できないこと」への不安から事象を過剰に言語化してきた日本の文化を主題とした一冊です。モノクロ写真から抽出された“それ”が、その事実を鮮明に示し、大型で頁数のある造本ながら、ページをめくるたびに「補完された日常」へ没入させる構成は秀逸です。卒業後、有馬さんは少数精鋭の有名デザイン事務所で活動していきます。本作を通じ、デザインの機能と装飾の両立にとどまらず、審美性が重要な要素であることを学んだはずです。今後の活躍に期待したいと思います。