建築・環境デザイン学科Department of Architecture and Environmental Design

[優秀賞]
梁取ゆず|記憶のマッピングから只見町の未来像を考える〜行政と住民の視点から考える新しい里山の再構築〜
福島県出身
加藤優一ゼミ
論文・紙面

私は福島県の奥会津地方にある只見町で育った。私は住民から「一人いなくなることは、博物館が一つ無くなることと同じことだ」という言葉を言われ、地域を深く知る一人ひとりの存在こそが、町にとってかけがえのない資源であることと、人口減少が進む現在、人とともに、文化や知恵、暮らしの記憶が静かに失われつつあることに気づいた。そこで本研究では、失われゆく記憶をアーカイブし、次世代へとつなぐ地域のあり方を探ることを目的とした。

そのアーカイブ手法として、「あの日の記憶新聞」を考案した。(図1)これは、誰でもできる地域記録の方法であり、これまでの暮らしや印象に残る出来事を聞き取り、それらを整理・書き起こし、「新聞」という形式にまとめている。考現学が「今の暮らしを観察し記録する学問」であるならば、本研究は「人々の記憶を手がかりに地域を読み解く試み」である。数値や制度としては残らない、日常の行為や身体感覚、感情に着目し、記憶の重なりから地域の構造や価値を捉え直す。

このアーカイブを、坂田集落の住民20人に行い、その記録データをもとに分析を行った。結果、子ども時代の行動範囲が減少していることが分かった。(図2)これは地域に滞在する時間と関係しており、地域理解や愛着の低下にもつながっている。また、時代の変化に伴う地域構造や暮らしの変遷を可視化した生活変化の分析では、効率化や社会構造の変化により、自然や土地との関わりが減少したことを「遊び」「行事」「暮らし」の3つの項目でみられた。(図3)これら二つの分析から、自然とともにあった里山の暮らしが薄れ、里山だからある暮らしや文化、自然、人との関わり方などを、次世代に伝えられていないとわかった。 私は、自らが博物館的存在となり、記憶を記録するだけでなく、記憶をつなぐ最初の一人になることを提案する。個人の記憶を重ね、共有し、次世代へ手渡していくことが、これからの地域を支える新たな仕組みになると考えている。


加藤優一 専任講師 評
本研究は、作者の出身地である福島県只見町を対象に、地域の記憶を次世代へ継承するためのアーカイブ手法を開発し、その分析を通して地域構造の変化を読み解いたものである。
研究は、「住民が一人いなくなることは、博物館が一つなくなることだ」という問題意識から出発している。開発した「あの日の記憶新聞」は、住民の記憶を聞き取り、新聞形式で可視化・蓄積する手法であり、専門性を必要とせず誰もが取り組める点に特徴がある。
実際に20人分の記憶新聞を作成・比較分析した結果、自然との関わりの変化に伴い、行動範囲や生活様式が時代とともに変容してきたことを明らかにした。
集落維持が困難となり得る未来を見据え、暮らしの記憶を地域資源として再定義し、その継承方法を提示した点において、新たな考現学的アプローチとして高く評価できる。また、本人は大学院へ進学し、この記憶を子どもたちへ伝える教育プログラムの実施を構想しており、今後の展開にも期待したい。

1. あの日の記憶新聞

2. 子ども時代の行動範囲の減少

3. 生活変化