
[最優秀賞]
渋谷怜衣|錆に宿る
山形県出身
渡邉吉太ゼミ
渡邉 吉太 准教授 評
鉄は酸素と結合し分子構造が安定する。この錆びた状態こそが、自然界における「彼ら」の本来の姿です。何かと結ばれることによって不動のものとなる鉄の特性は、「彼ら」と呼びたくなるほどに人間的でもあります。公園の砂場にさえ無数に存在する小さなありふれた化合物は、人類の科学技術の進化とともに、精錬され、打ち延ばされ、成形されて、身の回りのあらゆるものへと姿を変えながら、人々の生活を支えています。酸素と結ばれたい鉄は、水を渇望する砂漠の旅人のように錆びることを求め、人類はそれを抑制する技術を必死に磨いてきたのです。ここまで書けば、僕の鉄に対するフェティシズムが見えてくると思います。この鉄への偏愛を、愛弟子である渋谷怜衣、君が受け継ぎ、「彼ら」を慈しんでくれたことが本当に嬉しい。健気な、しかし荒ぶる素材を御するために、顔中を煤だらけにし、火傷を負い、有害なガスを四六時中浴びながら、泥臭くまっすぐに歩んできた日々が報われてよかった。君が打ち立てた金字塔を、今度は後輩が目指し、それを越えようとするでしょう。だからこそ、先を歩むものとして、彼らにその強く、そして優しい背中を見せ続けてください。大丈夫。言霊と呼ばれる魔法のようなものがあるとすれば、それは特別な場所にあるのではなく、喫煙所で毎日交わした何気ない言葉のすべてに宿っています。そう、砂場に潜むありふれた化合物のように。最優秀賞、本当におめでとう。