
[優秀賞]
庄司雪乃|見えない世界
岡山県出身
三瀬夏之介ゼミ
2350㎜×2000㎜ 和紙、岩絵具、水干絵具、墨
普段何気なく見ている風景。人は自分に必要な情報や興味のあるものにしか目がいかない。しかし他に目を向けてみると、新たな面白さを見つけることができるのではないか。この作品では木々や草、葉の持つ魅力に目を向けてもらいたいと思い描いた。もしかしたらすでに見えている人もいるかもしれない。
三瀬夏之介 教授 評
東北の荒々しい自然と固有の文化を背景に、日本画を通して「描くこと」の可能性を追求する日本画コース。目の前の風景と対峙し、精緻な観察によってその本質を掬い上げる「写生」の精神と、岩絵具や膠といった自然由来の素材を扱う伝統技法。本コースの根幹を成す教えを、誰よりも実直に、かつ深く呼吸するように体現し続けてきたのが庄司である。彼女は、故郷である岡山から、全く異なる風土を求めてこの山形の地にやって来た。以来、その足跡はたくさんの写生帖に刻まれている。卒業制作において、彼女はその膨大な写生の断片をパッチワークのように再構成するという手法を選んだ。画面に広がるのは、決して劇的な風景ではない。むしろ、多くの人々が日常の中で無意識に切り捨て、見過ごしてしまうような、名もなき草花や微細な自然の呼吸である。それらをすべて等価に、執拗なまでの密度で描き込むことで、画面からは特定の主役が消え、風景そのものが巨大な生命体のような静謐さを湛え始める。卒業制作に冠された『見えない世界』というタイトル。それは、徹底的に「見る」という行為を突き詰めた者にしか到達し得ない逆説的な境地だ。庄司は卒業後、また未知の土地へと旅立つ。そこでも彼女は、変わることなく呼吸するように写生を繰り返し、新たな風景を紡ぎ続けるだろう。彼女の眼差しによって構成されたこの作品は、もはや既存の風景画の枠を越え、私たちが知ることのなかった「見えない世界」への入り口を提示している。