エコハウスの外構と植物のデザイン

渡部 桂

エコハウスの敷地

大学の近くを流れる竜山川は、普段は穏やかな川で、カワラヒワやハクセイキレが水辺で遊ぶ様子が微笑ましい。しかし、いったん纏まった量の雨が降ると様相を一変させる。茶色の濁流がうねり、ゴツゴツと鈍い音をさせながら上流から土砂や大きな石を押し流してゆく。護岸された現在は、その範囲を越えて川が暴れることはないが、本来川とはそうやって右や左に流れを変えながら土砂を運搬して大地を形づくってきたのである。 「山形エコハウス」が建設された敷地は、こうやってできた大地の上にある。それは、建設段階で敷地から出てきた大量の石が川の水で押し流されながら削られ丸みを帯びたものであったことからも分かる。今回はこのような石が出やすい状態であった。それは敷地が切土造成された住宅地の一角だからだ。それより以前、ここは田畑として使われていた土地で、その地表面は現在の宅地造成面よりもはるかに高い位置にあったのである。敷地南東の大きな擁壁にもそれが表われている。

この地は田畑である以前はどうであったのか。それは自然の大地である。そこにはその地の条件に合った植物が生い茂り、動物が捕食の場やねぐらにしていただろう。その時間が途方もなく長く続いていたのである。人間がその場所を利用することで大きく環境が変化したのだ。田畑は生態的な環境としてみればまだ生き物にとって馴染みやすい空間である。しかし宅地は違う。生き物の生息空間が極端に少なくなる。舗装面が特にその場所を奪う。そして地下への水の浸透も妨げ、大きな水の循環の系を遮るのである。しかし、人間もその地で生きる自然の一部で、土地を改変して使うことは前提である。豊かな地域環境に貢献できる庭はどうあるべきか。このような問題意識から「山形エコハウス」の敷地のあり方を考えた。

庭のイメージ

地域の生態系の一部になる庭

「山形エコハウス」の庭は、地域の生態系の一部になることを目指す。つまり、開発で一度失われてしまった地域の生態系を部分的に補うという考え方である。敷地の南東には緩やかな西蔵王の斜面が連なっている。この斜面の生態系の一部がエコハウスの敷地まで降りてくるというイメージである。したがって植栽の骨格は雑木林で、潜在的な植生ではないが、この一帯の代償植生として群落を形成している落葉広葉樹のコナラを敷地南側に植えた。この位置に樹林を設けることで、夏の暑い盛りには木陰をつくりだし、冬には葉を落として南の窓辺に太陽の光を導き入れる。このようにしてエコハウスの熱環境への貢献もねらう。

実用的な農家の庭をモデルに洗練したデザイン

その林床の植栽はこれからである。基本的には近隣の雑木林でも確認できる地域の生態に馴染んでいるものの中から、庭という空間の用の一つである観賞に向く花や紅葉が美しいものを選択してゆく。その他この庭には畑も設ける。快適な環境でCO2を出さない生活を送るだけではなく、エコロジカルなものを理解するにはもっと自然の全体的な姿を理解することも重要であろう。そのほんの導入でしかないが、畑で作物を育てることは自然に働きかけながらその反応を見る端的でいい方法である。ここで作られる作物は決まっていないが、ウルイなどはぜひ植えたい。一般名ではギボウシと言われ、葉が美しいことから園芸種として庭にはよく植えられる。しかし山形では山菜として好んで食される他、畑に作物としてよく植えられている。見ても美しくて有用、この庭のあり方の目指す一つの方向でもある。

アプローチのシラカシとヤマブキ。山形は北国ながらやや温暖な植物も生育する土地柄である。シラカシは農家の庭先によく見られる。

庭と雑木林の間にはカキノキが1本植えられた。ただ樹木を植栽して緑を創出するだけではなく、有用物としての実が得られる。自然と人間の関係を調和させることを目指す意味において、カキノキにはそれを象徴的に表現させているのである。そしてカキノキの存在はなにか農家の庭を思わせる。そうである。「山形エコハウス」の庭のモデルは農家の庭なのである。実用的な農家の庭をモデルとして、それをさらに洗練させるイメージで庭をデザインしている。この地域の農家の庭では、当地で出た石を組んで敷地を造り、糧になるものを美しく植えている。装飾美でははい生きる強さの美がある。

庭は精神文化の象徴

太古から人は自然の森羅万象を捉えて宇宙を感じ、世界を想像し、それを思想や空間に反映してきた。それが端的に現れているものの一つが庭なのである。庭は精神文化の象徴と言うこともできる。エコハウスがこの時代に求められる「家」のかたちであるなら、その庭にもこの時代に求められる価値観を表現したい。その答えが地域の生態系の一部になる庭のあり方なのである。

渡部桂(わたなべかつら)

1974年生まれ。山形県出身。1999年、東北芸術工科大学大学院芸術工学研究科デザイン工学専攻修了後、ランドスケイプコンサルタント事務所に勤務。高速道路、住宅団地、個人邸のランドスケイプデザインのほか、農村景観調査、企業環境事業戦略等を手がける。2004年から同大学デザイン工学部環境デザイン学科助手、2009年から同講師。近年は森林整備、地域計画、広場デザインなどのほか、地域の資源を活かした観光事業もランドスケープ領域の仕事として取り組んでいる。当然ながら、環境を読むことから地域や場所へアプローチし、そこに必要なデザイン理論と方法を構築している。造園技術やランドスケープ研究を基に、地域環境の復元、維持、創出を実地で具体的に進める。共著「未来の住宅」(2009年)。