真の省エネ住宅の普及を目指して

森みわ((もりみわ)

何が本当のエコなのか

単に戸建住宅の燃費を減らすことを目的とするのなら、エコハウスの設計は、それ程ややこしい話ではないのですが、これからの住宅の資産としての位置づけや、住まい手の心のゆとりと健康、日本の森林の再生といった、さまざまな要素が加わった時、エコハウスの設計者には幅広い知識とバランス感覚が求められます。これは、省エネ建築デザインという比較的新しい学問体系と言って良く、これから私たちが本腰を入れて学生たちに伝えていきたいテーマであります。

ヨーロッパの省エネ先進国ではどちらかというと、早い時期から建築デザインに省エネにまつわる学問体系が吸収され、建築デザインは省エネでなければ実現すらしないという風潮になりましたので、近い将来日本でも、建築デザイン=省エネ建築デザインという当たり前の認識となるでしょう。その第一歩として、では一体何を持って省エネとするか、という事を、皆で整理しなくてはなりません。

この少子化社会において、本当に新しい建物を建てることは省エネなのか?既存の建物をどのように効率よく改修することができるか?そもそも戸建住宅で省エネを追求する矛盾は無いのか?実はそのような問いかけも含めて、建築デザインにおける省エネを議論することが、環境先進国ヨーロッパの当たり前なのです。ヨーロッパの当たり前と言えば、デザイン性が重要視されるプロジェクトにおいて、その省エネ性能を問わないなどという事は、EUではもう許されません。その知識を持ち合わせていなかった当時の私は、省エネに関するノウハウを独学ではなく建築物理コンサルタントと呼ばれるドイツにおける温熱環境のプロ集団から学びました。それによって、日本古来の通風や南向きの大きな窓、庇などが如何に省エネ効果を発揮するかを再確認すると同時に、私たち現代の設計者にすっかり欠如している、断熱気密に関する知識を本格的に学ぶことが出来ました。

パッシブハウスもEU圏のエネルギーパスもそうですが、省エネ性能を数値で評価する、という風潮自体、私にとって本望ではありません。昔の棟梁は、構造計算などせずに目検討で柱の太さを決めていたように、庇の深さもその土地の条件にあわせて決めていたに違いありません。しかし、現代の設計者にはそのような感覚が失われてしまったような気がします。この『失われた省エネデザインの感覚を、いち早く取り戻したい』という一心で、私は今パッシブハウスの評価ツール等を建築設計に取り入れています。何度か徹底的に熱損失計算をしているうちに、デザイナーとしてやって良いこと悪いことが分かってきたり、気象データと建物の形を見ただけで必要な断熱性能がなんとなくわかってきたりする訳です。たとえば北側に大きな窓を開けて自然を眺めたい時など、省エネの観点からはやってはいけない事も、別の観点から見てどうしてもやるべき時、それはやってしまえば良いのです。

大切なのは、確信犯である事を認識して、どこかでつじつまを合わせることです。そういうフレキシブルなアプローチで、『建築デザインと省エネの両立を設計者自身がやってのけること』、これが建築の経済性を高め、最終的に自分たちの思い描くデザインが、住まい手を満足させるというWin-Winを作りだす、そういうことなのではないでしょうか?

森みわ(もりみわ)

1977年生まれ、東京都出身。横浜国立大学工学部建設コース卒業後、ドイツ政府研究奨学生(DAAD)として渡独。ドイツStuttgart大学建築都市計画学部にて研究奨学生(DAAD)として渡独。ドイツStuttgart大学建築都市計画学部にて勤務、東京ドイツ大使館の設計等を手がける。2004年以降はアイルランドの設計事務所Buchloz McEvoy Architects、MosArtでの勤務を通じて、自然換気によ事務所Buchloz McEvoy Architects、MosArtでの勤務を通じて、自然換気によトタイプ開発に携わる。2009年に神奈川県鎌倉市に拠点を移し、設計事務所KEY ARCHITECTSを設立。ドイツのパッシブハウス研究所の認定を受けたパッシブハウス国内第一号を完成させる。2010年2月には一般社団法人パッシブハウス・ジャパンの代表理事に就任。著書に『世界基準の「いい家」を建てる』(PHP研究所)。東北芸術工科大学客員教授。