宮本隆司写真展|箱の時間

design:マンクリエイト

美術館大学構想企画展

宮本隆司写真展|箱の時間

宮本隆司氏(1947年東京生まれ)は、中野刑務所や日比谷映画劇場、香港の九龍城砦など、解体される運命にある歴史的建造物を静謐なモノクローム写真で捉えたシリーズ『建築の黙示録』(1988年/平凡社)でその名を一躍知られるようになり、第14回木村伊兵衛賞を受賞しました。
1995年には阪神淡路大震災直後の被災地を撮影した写真集『Kobe1995: After the Earthquake』を上梓。翌年のベネチア・ビエンナーレ建築展では、日本パビリオンに同じく神戸に取材した「震災の亀裂」を発表し、最優秀賞を受賞します。その後も一貫して都市の崩壊と再生の光景を撮り続ける宮本氏は、都市文明の生成を根源的な視座で記録する「廃墟の写真家」として世界的な注目を集めています。
本展では宮本隆司氏のキャリアの中から「箱の時間」というテーマを設定して作品を選出し、1983年から1996年にかけて、東京を中心にホームレスの建築物を撮影した『ダンボールの家』シリーズと、撮影者自身が巨大なピンホールカメラを制作し、その印画紙を張り巡らした内部に入って撮影を行う「ピンホールの家」シリーズの未公開作品を紹介しました。
宮本氏は、残飯や家の建材となり得る廃材を求めて都市を徘徊するホームレスを「都市の狩猟採集民」と呼び、彼らが都市に寄生する生活スタイルの中から必然的に生み出したダンボールやビニールシート製の家は、現代社会の諸問題により構築された最小単位の建築物だと考えます。
また「ピンホールの家」は、ピンホールカメラ内部にこもる撮影者の呼吸や体温といった要素が、写り込む画像にダイレクトに影響を与え、身体と太陽光との根源的な関係が印画紙に刻印されるといいます。
宮本氏の「箱」と「家」をめぐるこれらのアプローチは、暗い箱に光を集めて画像を定着させるというカメラの原始的な構造を下敷きに、目紛しく変化する都市文明の形相に、鋭く穴を穿つ、あるいは交流を遮断して沈黙するという、相反するアクションで照応しようとしているかのようです。
肥大化する情報化社会とヴァーチャルな映像体験により、ますます希薄化しつつある「身体」と「家」。本展は、私たち現代人の「内なる廃墟」を、その内と外の両面から写真化して見せる試みだと言えるでしょう。

  • 会期=2005年10月18日[火]−11月8日[火]
  • 会場=東北芸術工科大学7階ギャラリー
  • 協力=TARO NASU GALLERY/株式会社ドガ・ガードル/株式会社フレームマン

●関連イベント

  • ○開催記念トークセッション『都市の行方、身体の記憶|宮本隆司の眼差しを通して』
  • 『宮本隆司写真展・箱の時間』の開催を記念し、初日に出品作家とゲストによるトークセッションをおこないました。本展出品作の「ダンボールの家」をはじめ、宮本氏の写真作品が一貫して追求・提示してきた都市と建築が内包する様々な問題を、集合住宅を数多く手がける建築家・元倉真琴氏が「建築とコミュニケーション」の視点から、マタギ文化など山と森の民俗史に詳しい狩猟民俗学者・田口洋美氏が「現代都市と身体」の視点から読み解きました。
  • 日時=10月18日[火]17:30−19:00
  • パネリスト=宮本隆司(写真家/神戸芸術工科大学教授)/元倉眞琴(建築家/東北芸術工科大学教授)/田口洋美(民俗学者/東北芸術工科大学教授)
Copyright © 2009 Tohoku University of Art & Design, All Rights Reserved.