





竹内 あたり前ですけど、ここは「大学」ですから、建築を学んでいる学生たちが設計に取り組みますよね。彼らは初めての体験なのでとても熱心に取り組みますし、職業的な設計士からはなかなか出てこないようなフレッシュな発想をするので、その部分はすごく面白いし可能性がありますね。ただし、専門教育を受けているといっても社会経験に乏しい学生の提案をそのまま採用するわけにはいきませんから、私たち教員がアドバイスしたり、クライアントとの打ち合わせに参加していくことで、最終的には一般の建築事務所と同程度のレベルまで引き上げていきます。
あと、大学ですから、施工主の要望に対して必ず答えをださなければならないとは思っていません。通常の設計事務所が受ける場合だとそうはいきませんが、私たちは依頼内容に対してもうちょっと中立的な視点というか、すぐに設計をはじめるのではなくて、「その建物のあり方」とか、「この建物になにが出来るのか」など、前段としての議論ができるということですね。極端な場合、設計そのものをやめることを含めた、どんな選択肢もとれると考えています。


竹内 私たちは山形市内の古い蔵の再利用を提案する『蔵プロジェクト』に取り組んでいます。カフェバー『灯蔵 オビハチ』のオープンを通して、プロジェクトは一般に認知されつつありますが、次のステップとして、私たちは飲食店以外の蔵の展開を模索していました。そんな中、学生たちが企画した『蔵めぐりツアー』で今回の施工主の駒谷修二さんに出会ったのです。 駒谷さんは趣味で絵を描いていて、自分や仲間が個展を開けるようなギャラリーを自宅の敷地内に建てたいと考えていました。すでにある古い座敷蔵を活用しながら、新しく建てるギャラリーをどのように配置したらよいか、アドバイザーとして駒谷さんとあれこれ相談しているうちに、ごく自然な成り行きで「なにか設計プランを持ってきてもらえませんか?」というこことになったのです。 建築家の考えるベストな設計案と、クライアントの要望はたいてい一致しないのですが、駒谷さんとはそれまでのキャッチボールで、良い関係を築けられそうな手応えがありました。30個をこえる模型を駒谷さんに提案した末、『ギャラリー絵遊』と『蔵だいます』は完成したのですが、この建築は2008年度の東北建築賞優秀賞をいただきました。デザインそのものは斬新ではありませんが、施工主のビジョンと、私たちの蔵の再利用の提案、学生のフレッシュな感性など、様々な視点が互いの意見を尊重しながらベストな答えにたどりついた結果の受賞だと思います。


竹内 授業の課題では「クライアント」は存在しないのです。でもこのプロジェクトのような現実の現場だとクライアントは建築家がやりたいことに対していろいろと注文を出してくる。当然のことながら、学生たちは頭で考えることと、現実とのギャップに苦しむのですが、確認申請も出して、施工現場も最後まで見届けて、現実に建物が生まれていく過程に立ち合って、自分達が実はクライアントにすごく支えられて建築を生み出していると実感したはずです。この教育的な効果は計り知れません。 私個人は、『ギャラリー絵遊』のような実験的な建築が、この先、山形の街にどのような影響を及ぼしていくのか興味があり、現在は、市町村単位でのエコタウン構想や、伝統地場産業の体験型学習施設など「街づくり」にもつながる、もう少しひろい視野での建築設計に学生たちと取り組んでいます。今後も東北を舞台に、建築と地域社会との新しい関係を提案していきたいですね。
