





上原 そうですね。私が総合研究センター長としてはじめて書いた企画書は、企業と一緒に協力して、デザインを通して次代の担い手を社会に還元していこうという、「人材育成」に特化した産学連携プロジェクトでした。 例えば、高性能のレーシングカーをデザインする場合、ただ恰好の良いスタイリングだけを追求していくのではなくて、その形態自体が空力的に高い効果を発揮するとか、燃費がとても軽減されるとか、機能に直結する効果を含めた「デザイン」が求められます。HondaやCanonなどの大企業のデザイン部門は、スタイリングとともにそうした解析や実験をしているラボのようなところです。学生達にとって、自ら提案したデザインがどのようなプロセスで検証されていくか体験することが重要になります。ですから、製品デザインにおける産学連携プロジェクトの多くの事例は、大学側からのプロポーザルとして進められています。 つまり、学生たちがある提案を企業に投げかけ、協力を得ながらそのプランが現実的に可能かつ有効かどうかを実証していくのです。こうした企業と連携したデザイン教育は、日本のものづくりの将来を築いていく上で極めて重要な試みだと思います。

上原 私の考える産学連携のひとつ大きなテーマとして、「この大学が山形にある」ということがありました。自然と密接に関わりを持ちながら東北の人々は日々暮らしている。山形県は産業界で全国的にトップ水準なところですが、同時に農業も欠かせない。それで思い切って「農業をテーマに、Hondaとのプロジェクトとして、デザインするのは耕運機だ」と言ったら、男子学生たちは「えー」という反応でしたが(笑)。
これは実体験型という特徴を持たせたプロジェクトでした。「耕運機をデザインするならまず畑をつくろう」と、実際に皆で畑をつくらせて、その時にHondaに協力を仰いで、主力製品を提供してもらって使ったんですね。4月に開墾して腐葉土や肥料を撒いたりする時にはパワーがあるタイプ、次にコンパクトで機動性が優れたもの…と、作物が育つごとに用途に合わせて様々な機種を使いこなしていくわけです。それをスタイリングのデザインとパラレルで進めていくと、学生たちから実に有効性の高いアイデアがいっぱい出てきました。Hondaには最終的にモックアップまで製作していただき、次の年には除雪機を題材に取りあげました。


上原 まず、一番分りやすい成果としては、このプロジェクトに関わった学生は、高いパーセンテージでHondaを含め、日本産業界を担っている一流企業のデザイン部門に就職していきました。もちろん彼らは正式な企業実習を受けて、難しい入社試験をパスして入っていったのですが、やはりプロジェクトでの経験は大きかったと思いますね。企業側からしてみれば、新卒を一人前まで育てていくまでには手間も費用もかかりますから、社員教育が前倒しになったメリットがあります。それから、この耕運機のプロジェクトは『カースタイリング』誌など、国内外の主要都市で販売されている有力なデザイン専門誌に掲載されましたから、Honadaにとって人材育成=社会貢献というプラスイメージにつながりました。私は産学連携プロジェクトの成果を対外的にピーアールすることに力を入れています。『グッドデザイン賞』をはじめ、様々なデザイン関連のショーで具体的な成果物を発表していくことによって、大学と企業、双方のブランドイメージの向上に務めています。その実感が、次の有効なプロジェクトを呼び込んでいくのです。
