先生とつくる、デザイン選手権大会

占部 政則先生

占部 政則先生 | 九州産業大学付属九州高等学校 デザイン科

はじめに

このデザイン選手権(通称「デザセン」)が、他の高校生対象のコンクールやコンペティションと大きく違うところは「ただ単に造形の素晴らしさを競い合うものではない」というところです。生徒たちが「何を問題としてとらえ」、その解決策を「どのようにして導き出すのか」。このようなことに対して、正面から向き合うこの大会は、日本の造形教育において大変貴重なものだと思っています。
しかし、それだけに「どう指導したらよいのか?」と、指導する側の教員を悩ませます。
「これでいいのか?」「方向性は間違っていないか?」と、私も毎回悩みます。

個人的に感じるデザセンの面白さ

本校はこれまで4回決勝大会に出場し、2度優勝しました。4チームとも私が指導したチームです。そんな私がこのデザセンに感じている面白さは「答えが決まっていない!」ことです。私自身、教員の中でも頭が柔らかい方だと思っているのですが、この大会を見る度に、自分自身が如何に既存の考え方や、既に存在している物に縛られているのかをつくづく感じます。

「まだまだ、やり方がある!」と感じさせてくれることに私自身、面白さを感じています。また、生徒と、その方向性を探っていくときのドキドキ感はたまりません。…ですが、そのときは私自身も、生徒同様大変苦しいのです。

『話し合いで解決しましょう。』 デザセン2008 第15回大会 優勝

『話し合いで解決しましょう。』 デザセン2008 第15回大会 優勝

DESIGNを教えること

本校デザイン科には、毎年約80名の新入生が入学してきます。そんな新入生に「将来何になりたいの?」と訊ねると、多くの生徒が「イラストレーター」や「漫画家」と答えます。もちろんその答えが悪いわけではありません。しかし、彼らは「DESIGN=描く事」と思って入学しているのです。そのような彼らにどうすれば「考えることそのものがDESIGNなのだ」と分かってもらえるのか?また「考えること」自体をどのようにして取り組ませ、経験させていくのか?それが、DESIGNを教える者としての私の課題でした。
そんなときにこの「デザセン」を知りました。「発想」や「アイデア」にスポットを当てたこの大会は、当時の私の悩みの解決にはうってつけの教材でした。

初めての全国大会

2002年ぐらいから、このデザセンに取り組んできたのですが、ついに2004年に初めて山形で行われる決勝大会に出場しました。
決勝出場が決まって、過去大会のプレゼンの様子を収めたビデオを見たのですが、思わず「どうする…」と生徒たちと顔を見合わせました。私自身も初めてのことで、上手く生徒に対してアプローチもできず、当時の生徒たちにはかわいそうなことをしてしまったと反省しています。
しかし、この山形行きは私自身にとってかけがえのない財産となりました。それは、日本には、すごい先生がいると言うのを知ったことです。それまで、独りよがりで取り組んでいた高等学校でのデザイン教育に、新しいものを感じさせていただきました。特に神戸市立科学技術高等学校の新山先生と、有田工業高等学校の吉永先生には、そのとき大変お世話になりました。そして、各校のデザセンへの取り組みを聞かせていただき、とても参考になりました。
また、決勝戦で繰り広げられるプレゼンの様子に私自身、とても興奮しました。高校生たちが真剣に取り組む姿の美しさは、スポーツばかりが花形ではない!と、本当に感じさせてくれました。
そして「もう一度、この現場に来たい。本校の生徒たちに、この雰囲気を味合わせてあげたい」と心から思いました。ただ、そのためには、「デザセン」への取り組みをどうするのか?その指導方法は?
これは生徒が考えることではなく私の仕事だと思えました。

『故人との思い出の取り扱い』 デザセン2009 第16回大会 優勝

『故人との思い出の取り扱い』 デザセン2009 第16回大会 優勝

近年の取り組み方法

ここ数年、デザセンに取り組む学年は2年生と3年生の一部です。2年生は「デザイン演習」という授業で取り組み、3年生は私が担当している「デザイン概論」という授業で取り組んでいます。
「デザイン演習」は、週2単位の授業で、1クラス約40名のクラスを一人の教員で受け持ちます。今年は2クラスありましたので、デザイン科の2年生約80名を指導しました。
「デザイン概論」は選択授業なので、デザイン科3年生の一部の生徒となります。2年生も3年生も取り組み方は基本的に同じですが、3年生は2年生のときに全員体験しているので、話は早いです。

1.「キーワード」を見つけよう

最初にチームは作りません。個人作業を基本とします。
「問題発見」なのですが、最初から「問題は…?」とやっても、よくテレビや新聞で見かけるものしか出てこないので、まずはブレーンストーミングから行います。具体的な問題ではなく、頭に浮かぶ「キーワード」をどんどん書かせます。また、この作業は個人だけではなく、グループでも行います。
次に、出てきた「キーワード」を選んでいきます。この選考方法は、グループの人が出していない「キーワード」を基本的に残したり、私自身が「面白い」と感じたものを残します。この「キーワード」は、直接「問題発見」には繋がらなくても、方向性を定めたり、ここで出てきた「キーワード」自体を解決方法にする場合もあります(先に解決方法から入り、問題発見に繋げます)。
要するに、他の人が見落としているモノを拾うことが大切だと思っています。

2. アイデアの拡げ方と方向性の模索

キーワードが出ても、拡げていくことは高校生には大変難しいようです。
そこで、考え方についていくつか例を挙げて説明します。しかし、これも分かってくれる生徒と、「先生!わから~ん!!」と音を上げる生徒が出てきます。
ある程度のところで、個別にチェックを入れます。そこで、生徒が出している「キーワード」を基に、私自身が考え方を広げていく姿を見せていきます。この作業が私自身一番疲れます。
また、この段階で生徒とのディスカッションを行い、そこで出てきた言葉を生徒のスケッチブックに赤ペンで私がメモを残します。このメモは、一週間後の授業のときに「この生徒とは、こんな話で、こういう方向性を見つけたんだ」と分かり、とても役立ちます。また最終段階(コンセプト作成やプレゼン原稿制作)でも、アイデアが生まれてきた道筋を再確認できます。

以上の作業を4月~6月まで(約10時間ぐらい)行います。
また、この方向性を見つけるのは一人1つではありません。一人の生徒は大体3つぐらい見つけていきます。

3. チームを組む

この段階で、一つの「キーワード」から「問題を見つけたが、解決方法がまだ」と「解決方法を見つけたが、問題がまだ」の生徒たちが出てきます。個人での能力では限界もあるので、ここでチームを作ります。
チームの作り方は、基本的に好きな人同士です。本当は価値観の違うもの同士のほうが面白いのですが、なかなか今の高校生には難しいようです。ただ、一人3案(方向性)を持っていますから、Aさんの案を取り上げるチームは全部で3チームになります。つまり、一人3チームに属する事になります。40人のクラスで120チーム。120の案を作ります(この方法は以前、新山先生から教えていただいた方法です)。
そして、ディスカッションを行います。他の人から色々なアイデアをもらったり、問題の共有化を図ります。

4. まとめよう

前回から「コンセプト」の提出が一次審査となりました。そこで、この段階でアイデアをまとめてもらいます。提出用紙を参考に、文章を作ります。前回は、この用紙を一人につき3枚提出させました。
提出された応募用紙をまとめて、A、B、Cと三段階に私が振り分けます。そして、Aは必ず送る。Bは送るかもしれない。Cは送らない。として、郵送しました。

振り分けの基準は、私自身が「面白い」と感じるかどうかです。
理詰めだけで、唱えられた提案には、私自身あまり面白みを感じません。論理的でありながらも、ユーモアや新しさ、人を引き付ける何かがあるのか?そんなことを考えながら振り分けます。

生徒には悪いのですが、私自身すごく自信を持って振り分けているわけではありません。しかし、自分自身の経験と勘、そして、インスピレーションを信じていると同時に、「一地方のただの高校教師が魅力的に感じない提案は、そこまでだ!」と思っています。おそらく日本を代表するトップクリエーターの方々には通用しないでしょう。

5. 一次審査後…

授業での取り組みは、基本的に一次審査までです。個々の提案内容で点数を付けます。
昨年は一次審査の結果を見て、合格したチームには、ボーナス点を与えました。そして、ボードの草案に取り掛かります。
複数の提案が合格した人は、基本的にどれかひとつに絞り、ボードに取り組ませました。
まず、B4ケント紙を渡し、それにボードの下書きをさせます。そして、その下書きを基に、私が個別に指導し、清書用のボードを渡します。B4ケント紙のボードの下書きの作業は、授業の時間を使います。不合格者は別の課題に取り組みます。

二次審査用のボード作成は夏休みの宿題となります。夏休み中、直接の指導ができないのでいつも不安を感じていました。そこで、今年は私との連絡がスムーズにできるように、ネット上に掲示板(BBS)を作りました。
いっぱい書き込んでくれるだろうと楽しみにしていたのですが…結果は私からの連絡ばかりで、誰も書き込んでくれませんでした。
後から生徒に聞いたところ、「実名で書き込むのは恥ずかしい」とのことでした。子供心は複雑です…。来年はもう少しやり方を考えてみようと思います。

6. 夏休み明け!

毎年、ワクワクするときです。「あの提案はどうなっただろう?」「きちんと表現できているかな?」など思いながら生徒のボードをチェックします。
そして…がーん!「あまりにも汚い字」「分かりにくいレイアウト」等々。思わずため息が出ます。
発送まで、まだ少し時間があるので、個別に生徒を呼び出し訂正するところを伝えます。
例年そうですが、最後はバタバタ梱包して発送となります。
発送を終えて毎年思うのは、「もっとしっかりと指導してあげれば良かった」と自責の念でいっぱいになることです。

7. そして、結果発表日

私は昼過ぎごろからデザセンHPにアクセスします。「まだだ…」「まだ出ていない…」何度もHPを開いては閉じを繰り返すのですが、生徒の方は無邪気なもので、結果発表日ということさえ忘れているみたいです。
「来た!」HP上に結果発表の更新を確認して、クリック。結果のページにアクセスします。北の学校から掲載されているので、ドキドキしながら少しずつページをスクロールします。「キター!!」「うわ~っつ!!」合否に関わらず、職員室で私の大きな声がこだまします(事前にHP発表の予定時間を教えていただけたらうれしいです)。

8. 全国大会へ…

決勝進出が決まったら決まったで、目まぐるしい日々が始まります。が、その様子は山形でお会いできたときに直接お話ししたいと思います。(いつ行けるか分かりませんが…)
ただ、本校では「ボードを送る」までと「決勝戦の準備」は、全く別のものとして取り組んでいます。2単位の授業で1学期間使っても、私の技量では全員の生徒の提案のプレゼンまで持っていくことはできません。
それよりも、「アイデアを出すこと」とは何なのか?「ただの思い付き」と「しっかりと考えたうえでの発想」との違いなどを、まずデザイン科の生徒全員に感じてもらうことが大切だと思っています。

『Let's share the "you"』 デザセン2010 第17回大会 入賞

『Let's share the "you"』 デザセン2010 第17回大会 入賞

これから、デザセンに取り組まれる先生方へ

以上が、本校でのデザセンへの取り組みの一部です。
デザセンではないのですが、まだまだやり方はいっぱいあると思っています。生徒にアイデアを出させるように、私たち教員も、新しい授業のアイデアを発想していきましょう。その発想を楽しむことができれば、明日からの学校業務にも楽しみが見えてくるかもしれません。

無責任に思われるかもしませんが、気構える必要はないと思います。生徒と共に楽しみましょう。なんたって「正解が決まっているわけではないのですから」(でも、それだから不安になってしまうのですよね、教師って…)

最後に

ちなみに、デザセンを行っているとき、生徒たちが付ける私の授業に対しての授業評価アンケートの結果は決して良くはありません。
「わからん!」「難しい!」と、多くの生徒が言います。
あ~私の伝えたいことが伝わっていないと、感じることも沢山あります。
でも、その一方で、「あーかな?」「こうかな?」「じゃ、こういう方法は?」と、アイデアを考えること自体を本当に楽しんでいる生徒もいます。

このデザセンは甘いジュースではないのかもしれません。苦味や渋み、そして、そのなかに大人が感じる旨み成分がたっぷり入った教材なのかもしれません。生徒個人個人の精神的成熟度が、大きく関わっている気がします。

しかし、教員としては様々な成長段階にある生徒たちみんなに「面白かった!」と一度は言わせてみたいと思っています。
よ~し。来年度は、また違ったやり方を考えてみるか!

 

九州産業大学付属九州高等学校

九州産業大学付属九州高等学校

1963年に開校。2013年には創立50周年を迎えます。占部先生ご担当のデザイン科のほかに普通科(特進クラス・準特進クラス・スポーツ特進クラス・進学クラス)があります。
〒813-0012 福岡県福岡市東区香椎駅東2丁目22-1

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