先生とつくる、デザイン選手権大会

長澤 英一郎先生

長澤 英一郎先生 | 山形県立東根工業高等学校 総合技術科 デザイン専攻

取り組みに充てている時間(授業)

本校では平成13年より取り組みを始めました。3年生の課題研究の時間をデザセンの時期に合わせ、6月上旬から9月上旬までの間でまとめ取りし、約50時間を充てています。
対象は3年生全員で、平成13年から平成20年まではデザイン工学科で約40名が取り組み、平成21年から平成23年度までは、総合技術科/デザイン専攻で約20名が取り組んでいます。

約50時間の大まかな流れ

・デザセンの説明、前年度のDVD鑑賞、チーム分け …3時間
・事務局から作成していただいたPlanning Worksheetの活用 …15時間
・テーマ探し、立案 …6時間
・提案 …18時間
・プレゼンボード製作 …8時間

昨年から一次審査が設けられているため、審査を通る通らないは関係なく、立案からボード製作まで行い点数化し、評価をしています。

デザセンに取り組んでいる理由、目的、取り組みを通しての達成目標

デザセンは「気付く・考える・伝える・感じる」が実践でき、デザインって楽しい!を実感できる良い教材です。
本学科は工業デザインを核にデザインの基礎を学び、それを応用する力を養うことを目的としており、日々「デザインって何だろう?」の疑問を念頭に学校生活を送らせています。その答えのヒントがデザセンにはあると感じているため、取り組ませていただいています。

近年ではようやくデザインという認識が確立されてきてはいるものの、中学校段階では「絵を描くこと=デザイン」のイメージが強いようで、絵が好きな子は東根工業高校のデザインに入ったら?の方程式ができてしまっているようです。その流れで入学してくる生徒は、持っていたイメージとのギャップで戸惑いが生まれますが、デザセンの存在を知ることや、それに取り組むことによって「デザインってこれでいいんだ~!」を感じて、自分たちの自信へと繋がってくれている?と信じています。

『藝術的蟲化計画』 デザセン2006 第13回大会 入賞

『藝術的蟲化計画』 デザセン2006 第13回大会 入賞

実際の指導方法

意識付け(導入部分)

本学科の2年生全員が高校生審査員として参加させていただいているため、生徒たちは必然的に3年生になったら取り組むものだと認識しています。決勝大会会場で入賞チームの熱いプレゼンテーションを目の当たりにすることによって良い刺激となり、「来年はこの舞台で!」という決意が生まれるようで、すんなりと取り組むことができています。

チームの編成方法

今まで、好きな者同士チーム、出席番号順チーム、くじ引きチームなどを経験。くじ引きチームは男女混合になったり、普段あまり話をしないクラスメイトなど…。
問題点?はありますが、結構良いモノが生まれる確率が高いので、近年はくじ引きで決めることにしています。

問題・課題の発見(テーマの設定)

「アイデアは身近に転がっている」をスローガンに、人が思い付きそうで思い付かないもの、気付きそうで気付かないものを思い付き、気付く努力をさせています。各自が家から学校までの間に何かテーマとなるものはないかを探索しながら登校するようにさせています。ここではできるだけ指導者側の意見を入れず、高校生らしさを大切にしています。

『あ・る・く』 デザセン2008 第15回大会 入賞

『あ・る・く』 デザセン2008 第15回大会 入賞

アイデアの拡散、収束

「発想の転換・・・脳みそをグニャグニャに」

計算されつくされた「お~スゴイ!」よりも、誰も気付かないような、気付きそうで気付かないコトで感じさせる「お~スゴイ!!」を目指したい。それを実現させるために、発想の転換ができるようになる課題をこなすことにしています(みんなが日常、よく使用するモノを題材に)。

例えば…【新しいカメラをデザインしよう!】

1. カメラをリアルに見つめ、徹底的に調査させ、なぜ人はカメラを使うのか、写真を撮るのかを気付かせる。
2. たくさんの「気付き」のなかから、キラリと光るコトを見つけ出し、そのコトについて色々と考え、発想の転換を行う。その際に、物事をミニマムにできる能力を養わせる(そのモノのコレをなくしたらそのモノではなくなってしまうというコレを外すテクニック)。
3. たくさんの「考え」を活用し、新しいカメラをデザインする。
4. 自分の考えた新しいカメラを人が使うことによって、どのようなことが起こるかなどを「感じる」。
5. 自分の考え、感じたことを人に「伝え」、色々な意見をもらい、自分のアイデアに活かす。

…といった課題を幾つも行うことによって、自分の頭の固さを再確認し、既成概念を打ち壊す考えを持てるようになっていきます(なっていくように仕向けます)。
最終的なプレゼンボード製作では、グラフィックデザインを意識し、文字組やバランスを考慮できるよう、指導しています。

長澤 英一郎先生

取り組みによって得られるもの

本学科に入学してくる生徒は、絵を描くことや自分の考えに自信を持っている子が多く、自分の作品に対して批判される経験がなかったり、「打ちのめされる」経験をしていません。そんな子たちが次々と経験する良い意味での挫折をどう乗り越えていくか、我々のダメ出しをどう超越していくかの成長を垣間見ることができます。我々に「お~オモシロイ!」と言わせるために、必死になって自分たちの自己満足を打ち壊すことができています。また、お互いのチームをライバル視し、より良い、より面白い、より素晴らしいアイデアを打ち出そうとしてくるチャレンジ精神が生まれ、デザインは発明ではなく発見であることを再確認し、創造性豊かな感性を持ち、物事を多方面から見られる目を養うことができてきます。将来、ここで学んだことを活かし、自分の人生をデザインできる人間になってくれるはずです。
実際に決勝大会に進み、あの会場でプレゼンテーションを行った生徒は、涙を流しながら「高校生活の中で一番の思い出になった」と語ってくれました。

今後の課題、抱負など

事務局にはご苦労をおかけしますが、このような大会は類を見ないため、これから先も長く継続していただきたいと思います。ここ山形という土地で、全国の高校生がデザインというコトについて結びつきを持ち、熱いプレゼンテーションを繰り広げているのだから、もっと山形県全体が注目してもよいのではないかと感じています。そして、デザインを学ぶ高校生の出口をもっと広げていただけたらと願っています。

近年、各チームのテーマが固いイメージがあります。また、提案もアプリへの方向性が多いことも残念です。もっと着眼点をオモシロく、高校生らしい発想で、聞いている側に「やられた~」と言わせる、悔しさや楽しさを味わえる大会にしていきたいものです。

最後に

「デザインってだれでもできるんだ!」「デザインってこんなに楽しいんだ!!」
を世界に発信することが、この大会に参加している高校生、我々指導者の使命であると感じています。

山形県立東根工業高等学校

山形県立東根工業高等学校

山形県中央部に位置する東根市にある専門高校。長澤先生ご担当の総合技術科は、平成24年度に新設される「プロダクトデザイン科」に引き継がれます。このほか、機械システム科、電子システム科があります。
〒999-3719 山形県東根市中央西1-1

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