棚橋美沙希「被災した扁額『満盞流霞』の調査と保存修復処置 (抜粋)」

  【はじめに】東日本大震災で被災した作品20点の内の1点である扁額作品「No.15 満盞流霞」の処置を担当した。   【作品概要】材質技法:絹本墨字/制作年:明治18年(1885)/作者:日下部鳴鶴(署名:鳴鶴仙史東作)/形態:扁額装、金箔地台紙、黒色塗縁木   【作品調査】形態は扁額装で、下張りは画面側5層、裏面側4層の文書紙が木製の骨組子に層状に重ねて貼られていた。本紙は繻子織の絹本で「満盞流霞」の文字が墨で書かれていた。本紙のまわりには金箔台紙の大縁が施されていた。   【損傷状態調査】作品は震災以前の経年劣化、震災での被災、双方の影響を受けていた。中でも、津波とともに押し流されて付着したパルプ屑などは作品を鑑賞の妨げや、作品に悪影響を及ぼす危険性があった。また、本紙や金箔台紙の破れから剥離・欠損が生じるなど激しい損傷が見られた。   【処置方針】所蔵者に選んで頂いた作品「No.15満盞流霞」の本格修復、仕立て直しを行う。以下の3つを基本方針とする。①現状よりも安全に保存できる状態を目指す。②「保存額装」の形に仕立てる。:グレージング(紫外線カットアクリル板)の採用。③本格的な修復として再び額に仕立てる:本紙と金箔台紙の修復、パネル装、縁木などの額装ベース部分の新調。   【実地処置】今回、作品の処置に加え、新しい下張りパネルの作成も並行して行った。   【本紙への処置】作品は状態観察・記録後クリーニングを行い、付着物・旧裏打ち紙の除去後、新たな肌裏打ち・増裏打ちで本紙を補強し、新しく作成した下張りパネルに貼り込んで額装に仕立てていった。   【下張りパネルの作成】本作品の下張りパネルは劣化損傷が激しくみられ、作品を安全に長く保存するために新しい下張りパネルを作成することにした。今回は計8層の紙を重ねた下張りパネルを作成した。   【処置後の考察】下張りパネルは旧パネルに比べて、保存面に配慮した仕掛けを骨に施し、良質な紙の層を増やしたことで作品によりよい環境の下地をつくることが出来たと言える。仕立て直しを行ったため、作品の本紙と金箔台紙以外の印象が、以前と比べると大きく変わったところが多く見受けられると思う。   原文から抜粋