酒井翔月「漂白剤を使用した洗浄処置が絵絹に与える影響 (抜粋)」

  【緒言】本研究では、これまで明らかにされてこなかった絹本作品の漂白処置法に関して調査を行い、調査結果を踏まえた漂白実験と、視覚情報を中心とした評価方法で絹へ及ぶ影響を明らかにする基礎研究を実施した。   【文献、聞き取り調査 】事前に使用薬剤の種類、漂白方法、漂白処置の問題点や漂白剤が材質へ及ぼす影響に関して、文献及び山形市内の表具師の方から聞き取り調査を行った。   【予備実験】過マンガン酸カリウム液の濃度を0.01~5%で段階的に調製し、浸漬時間を3分~24時間で実験し、マイクロスコープ、走査型電子顕微鏡(SEM)観察で絹繊維の変化を比較し、絹が薬品によって劣化しない作業条件を考察した。本紙の変色や破壊の要因に関しては、エネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いて、漂白後の絵絹に残留する物質を分析した。   【本実験】評価方法は、汚れ部分のみ漂白を行い、マイクロスコープ観察、彩色測定の結果から考察した。   【漂白処置の作業条件】予備実験の結果、絹へのダメージが小さい濃度は過マンガン酸水溶液0.01%、0.05%、0.1%であったが、汚れの漂白効果は低かった。一方、漂白効果が高い濃度は、10分以下の浸漬時間で過マンガン酸液0.5%(事前に汚れ部分の水洗いを行った場合)、1%の濃度であった。しかしSEM観察で繊維が崩壊する様子を確認したことから、絹繊維にダメージを与える条件であると考えられる。 本研究では絹へ与えるダメージだけではなく、汚れの漂白にも重きを置いたため、0.5%は適する濃度だと結論付けた。更に濃度を上げた場合漂白作用は高くなるが、1%や5%は予備実験で繊維へのダメージを確認したため、漂白に用いることは避けたい。以上を踏まえると、1%や5%の濃度よりは繊維への負担が小さく、尚且つ汚れを漂白できる濃度は0.5%であると判断した。   【漂白後の残留物質】漂白後の試料からナトリウム(Na)と硫黄(S)が検出された。これらは過マンガン酸カリウムの色素を還元する亜硫酸水素ナトリウムに由来する物質である。   【総括と今後の課題】本研究の結果から考察した絹への負担が小さく、汚れの漂白も可能な作業条件は、0.5%の過マンガンカリウム液に10分浸漬させた場合であった。しかし糸状菌による汚れのみ検討を行ったため、別の種類の汚れに対しても有効であるか再実験を要する。   原文から抜粋