石井紀子/左治木悠子「(共同研究)六所神社 木造六所権現本地仏の修復、及び保存環境の対策(抜粋)」

  1. はじめに 平成21年、山形県鶴岡市の六所神社木造六所権現本地仏の修復が東北芸術工科大学文化財保存修復研究センターに依頼された。ご本尊は修復処置後の保存環境についても対策を講じる必要があるため、仏像の安置環境について調査・研究を行った。この修復と保存環境対策の2テーマをより深く研究するため、修復処置を立体作品修復室の石井が、保存環境対策を保存科学研究室の左治木が担当した。なお、6体の内、薬師如来立像を修復し、処置は本センター彫刻修復担当の岡田専任講師と所蔵者の方々との協議の上行った。   2. 六所神社木造六所権現本地仏について 古来、日本 人は山岳や巨石など自然そのものを敬い、神の姿形は現されなかった。6世紀中頃に朝鮮半島から仏教経典や仏像が伝来すると、神道にも神像が造られるようになり、平安時代中期頃になると神と仏(如来)は同じ存在であると考えられ、本地垂迹説が説かれた。これは、仏(本地)が衆生を救うために神(垂迹)という仮の姿で現世に現れる(権現)というものである。本地垂迹説は全国に広まり、多数の神々の本地仏が定められた。この思想は明治4年(1871)の神仏分離 令まで長く続いた。 六所権現本地仏像も同様の思想に基づく仏像で、地蔵菩薩立像・釈迦如来立像・阿弥陀如来立像・勢至菩薩立像・観音菩薩立像・薬師如来立像はそれぞれ愛宕社・春日社・八幡社・加茂社・稲荷社・祇園社の本地仏である。 六所神社とは、六柱の神々を合祀した神社で、社殿の鎮座する地域の氏神として崇敬されている。 本研究で修復処置を行う薬師如来立像の概要を以下に述べる。   薬師如来立像(垂迹神:祇園社) 法量(㎝) 像高(最大高):50.3  腹厚(衣上・最大厚):9.4 肘張(最大張):17.0 如来形。右手を屈臂し、五指を伸ばす。左手に薬壺を持つ。円光背。長方形の岩座のような台座に立つ。   3. 状態観察 3.1. 損傷状態 6体は同様の損傷を受けている。金箔層には剥離、彩色層・下地層に剥落、剥離が生じ、特に厨子の東側に安置されている勢至・観音・薬師の背面に多い。虫損は勢至と薬師に多く、食害によって衲衣裾と裙裾の形状が失われている。また、台座に無数の虫孔があく。埃やカビのような物質が混在した白色付着物が彩色層上に見られ、各像の肩や胸、前膊、体側に垂下する衣に多く付着している。指先などを欠損・朽損し、足先や光背留めを亡失する。   3.2. 構造観察 透過X線撮影により、本像は一木造、如来形は手足先、菩薩形は肩先、足先を別材で造る。面相部を耳前で割矧いで内刳を施し、地蔵以外は米粒状の納入物を込める。   3.3. 樹種同定 東北大学学術資源研究公開センター植物園の協力により、本像はヒノキ科アスナロ属、台座はマツ科マツ属複維管束亜属であることが判明した。   3.4. 塗膜層 本仏像の金箔層(箔+下地)・彩色層(茶色+下地)の技法を調査するために、走査型電子顕微鏡(SEM)とエネルギー分散型X線分光分析(EDX)・X線 回折による分析を行った。その結果、下地からはCaCO3が検出され、時代性も考慮すると胡粉である可能性が高い。金色の塗膜層は金箔であった。茶色の塗 膜層は顔料と思われる結晶の検出量が低く、①染料②体質顔料(基底材(白土等)+染料)③染料+顔料などの技法が用いられた可能性がある。   4. 保存環境調査 文化財の劣化は、作品が保管されている環境によって被害の程度が変化する。この環境という言葉には、光や温湿度・大気・生物などあらゆる要因が含まれている。本研究で扱っている仏像は虫喰いや彩色層の剥落など甚大な損傷を受けている。像は神社建物内にある木製の厨子に安置されており、扉は閉められ普段人が見ることはない。そこで今回は温湿度と文化財害虫の2つの環境因子を調べることにより、損傷の原因を明らかする。そして今後の保存環境を改善するための一助とすることを目的とする。   4.1.温湿度の調査 神社施設の内部と、さらにその中にある厨子の中の温湿度を約1年間にわたって計測した。調査には計測器(データロガー)を使用し、30分毎に測定を行った。 当神社は山の中腹部に位置しているため市内の気温と比較すると2、3度低い。神社内部の温度はおおよそ夏25℃~30℃・冬-5℃~5℃を記録した。湿度は高く、年間を通してRH60%以上出ていた。厨子は神社の一番奥(北側)にあり、建物に組み込まれる形になっている。神社内部と比較すると、温度は 1,2℃程度夏は低く、冬は高い。違いがはっきりしているのは湿度である。夏はRH80%以上、冬はRH100%前後を保っていた。また、一日(24時間)の温湿度変化は、厨子の中が最も緩やかな曲線を描いていた。 以上の結果から、厨子の中は①周辺の環境より温湿度の変化が緩やかであり、②高湿であるということがいえる。仏像の材質にとって①はメリットであるが、②は彩色層が劣化しやすくなるためデメリットである。   原文から抜粋