2015年度入学式 根岸学長の式辞を掲載

4月5日(日)本学体育館で行われた、2015年度入学式(学部・大学院)における根岸吉太郎学長の式辞をご紹介いたします。

2015年度 東北芸術工科大学入学式 学長式辞

東北芸術工科大学芸術学部及びデザイン工学部に入学された新入生の諸君、大学院修士課程に進学、入学された諸君、入学おめでとう。

ご臨席の保護者、ご家族の皆さんにも、大学を代表して心より入学のお祝いを申し上げたいと思います。

今日から皆さんは芸術家です。デザイナーです。研究者です。

というよりは、芸術家のたまご、デザイナーのたまご、研究者のたまごでしょう。一日も早くたまごの殻を自らのくちばしで割って、ひよことなることを願っています。

この大学は座っていれば知識を詰め込んでくれる場所ではありません。自分から作品をクリエイトし、問題を研究し、自分自身を再創造していくところです。それは簡単な道のりではありません。

おまけに学部4年間、修士課程2年間という時間はあまりにも短く、あっという間に過ぎ去っていくものでしょう。4年間というのはちょうど東日本大震災から今日までの時間です。君たちも忘れられない経験をしたことでしょう。被災したり、家族や友達を失ったり、人生の中でとてつもなく大きな出来事であったのではないでしょうか。そうした困難を乗り越えて君たちがここに集っていることに、言いしれぬ感動があります。

しかし、未だに8万もの人が仮設住宅に暮らしており、23万人がふるさとを追われたままでいることも忘れてはなりません。4年間というのは復興を俯瞰して見れば、それほど何もできない時間でした。同時に、この4年間ボランティアを含め、ひとつひとつ石を積み上げるように活動し、次のステップに向けて光をともした人々もいます。君たちの次の4年間は、君たち自身の過ごし方にかかっています。

それではどのようにすればいいのでしょうか。

まず、自分のアイデアを持つことです。

そのアイデアは自分が好きで強く興味を持てる物でなければいけません。言いかえれば、愛せるものです。まわりがそのアイデアに何を言おうと、自分を信じて最初の創作に、最初の研究に取り組んでください。

自分を信じることと独りよがりは違います。自分を信じるためには、観察することが必要です。この蔵王を背景に出羽三山に向き合った自然の中で、生きとし生けるものを見つめてください。
本館3

出会った一人一人の人間をしっかりと見てください。自分が眺める花や樹木、すべてに命の精が宿っていることを、どのような人間の中にも清い心と邪悪な心がひそんでいることを。

昨晩は満月で、皆既月食の日でした。夕方、大学に向かっていると山の端に輝くものが見えました。何かと思ったら月の出でした。

大きな月が信じられない輝きをもって私を迎えてくれていたのです。生まれてはじめて見る感動でした。生きとし生けるものだけではないのですね。月はもちろんのこと、石ころから宇宙まで、そこに潜む何かを芸術家の目をもって見つけてください。

光と影の芸術家であるレンブラントは「夜警」をはじめとして多くの傑作がありますが、彼の画業が成功を修めはじめた1630年頃の乞食を描いた素描やエッチングがあります。富裕な階層から肖像を頼まれているさなかに、レンブラントは乞食を描きます。寒そうで惨めで、しかしながらしっかりと生活し存在する乞食です。

当時、金遣いが荒く、世間から非難されていたレンブラントなのに、なぜ乞食を描いたのでしょう。ただいえることは、レンブラントが見ていたものはぼろぼろの乞食の外見だけではありません。モデルの乞食のなかに潜む一片の気高い聖なる心もうつしており、それが彼を芸術家たらしめているのです。

彼の素描の線を真似することはできるかもしれません。確かに美術には模写をはじめとして技法を学ぶすべは数多くあります。しかし、人間の内面をも写し取ろうとした眼とアイデアは盗むことはできないでしょう。技法は作りたいもの、やりたいものが明確になっていけば、いやでも必死に努力し修得することになります。

そして自らの新しい技法を生み出すことになるでしょう。技術がなければ作りたいものを見つけることができないという考え方もあるでしょう。大学にそうしたメディアや分野があることも知っていますが、そこで技法を学んでいるあいだも、何かを表現するアイデアを掴むために学んでいるのだということを忘れないでください。

まずは、自分が愛せるアイデアを掴むことです。それが、大学生活をデザインする第一歩だと思います。そこから自分のライフスタイルをデザインしていくのです。

次には、その表現、研究や創作が世界とどう結びついているのかを考えてほしいと思います。逆に言えば世界があり、受け止めるひとがいるから表現をする意味があるのでしょう。表現した研究や創作が世界の中でどのように生きていくのかを見届けなければいけません。

この大学には企画構想学科やコミュニティデザイン学科のようにものをデザインするのではなく、ひとのつながりの仕組みや幸せをデザインしようとする学科があります。これらの学科は大学がつくったというよりも、時代が必要とした結果生まれたものだと思います。デザインや芸術が社会や地域と意識的に深く交感しようとしているのです。これらの二つの学科のみならず大学全体が地域や社会から学び、同時に地域や社会に豊かさを還元していく時代となったのです。

大学院修士課程に本年度スタートする「地域デザイン研究領域」もその研究を高度に推し進める力となるでしょう。自分の狭い世界に閉じこもって、芸術をこねくり回す時代は終わりました。世界を変革できるのは、デザインと芸術の力です。人類は依然として戦争を続け、原発をはじめとするエネルギー問題は解決されぬまま地球環境を破壊し続けています。そうした21世紀の現在こそ、一万年を超える長きにわたった縄文文化の自然観と共生の原理を日本人はもう一度見直さなければならないでしょう。

それこそが、この雄大な自然の中に立つ東北芸術工科大学の使命なのです。今日から、その使命を胸に、学生も教員も、互いに学び、互いに遊び、コミュニケートしながら、充実した学園生活をめざそうではありませんか。

本日は入学おめでとうございました。

東北芸術工科大学 学長 根岸吉太郎

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