地方都市での印刷業のイノベーションの研究 −田宮印刷におけるイノベーション− 齋藤健

□研究目的
 本研究では、転換期にある地方中小印刷業の今後の可能性を考察するために、山形市にある田宮印刷株式会社をテストモデルとし、業界動向や市場性、企業リソースなどを調査し、新規事業領域の方向性を仮説化する。
 そして、その領域でのビジネスが成立するかを検証し、新たな新規事業領域を開発することを目的とする。

□研究方法
 本研究は、印刷業界の取り巻く様々な現状を業界組織の報告書・計画書等から調査し、業界がもつ問題点と可能性を把握し、また、全国の成功事例から成長分野の事例調査を行った。
 更に、当社での現状分析を行い、イノベーションの方向性を3つ仮説化し、それに基づくビジネスモデルを具体的に当社既存顧客や市場に対して企画提案し、その新規事業領域の可能性を検証した。

□新規事業仮説化(3つの事業領域の抽出)
 地方都市中小印刷業が将来的に目指す新規事業領域を開発するために、新規事業領域を3分野仮説化した。
 印刷業全体のポジショニングと先進事例の方向性を参考にしながら、SWOT分析を用い下記の3つの事業領域を抽出した。
1)化戦略施策「地域販売ソリューション」領域分野
2)積極的攻勢施策「IT・WEBソリューション」領域分野
3)積極的攻勢施策「食・農産品コンサルティング」領域分野

□3つの新規事業領域調査・検証
 3つの各領域で、プロトタイプの暫定的なビジネスモデルを仮設定して、実際に既存クライアントへテスト提案し、ニーズ調査とその過程での社内リソースの実現性充実度の評価調査を行い検証した。

1)「地域販売戦略ソリューション」領域調査
 クライアントで明確な課題ある場合でのクリエイティブや表現力は充実しているが、エンドユーザー情報などの生活者研究分野や、各メディアの費用対効果の説明などの分野、販促展開後の効果検証分野での能力に欠けていることが分かった。

2)「IT・WEBソリューション」領域調査
 インターネットの普及によって変化し続けるIT・Webサービスは、生活者などサービスの提供者側がその影響を早く受け、それをターゲットとする企業はそのスピードについていけていない状況であった。提案したビジネスモデルは、現在のニーズは低かったが、今後に対しては、強く必要性を感じているようだった。
3)「食・農産品コンサルティング」領域調査
 ニーズ評価、リソース充実度も高い評価結果であった。特に市場のニーズは旧態依然の流通販路の限界を感じ、新たな流通販路を模索している事業者が多く、実際このニーズ調査をしている最中も、当社既存クライアントから同様の案件相談が数件あった。

□3つの事業領域の考察

1)「地域販売戦略ソリューション」領域
 クリエイティブな価値提案だけではなく、情報産業分野とサービス産業分野を強化して、生活者研究分野を大きな柱として、生活者のニーズ研究、結果検証サービスを強化し、それらの情報を企業へフィードバックし、パートナーシップをより強く築くことによって、製造業のドメインから販売戦略パートナーとしてシフトしていく可能性があると思われる。

2)「IT・WEBソリューョン」領域
 印刷メディア制作時に取扱うさまざまなデータを活かし、強みのシステム開発力とプロデュース力で最適な企業活動を支援して、目的達成型の費用対効果のあるサービスを提供し続けることがこの領域の可能性と思われる。

3)「食・農産品コンサルティング」領域
 特化したノウハウを戦略的に強化していき、需要開発型のビジネスモデルを策定することが大きな機会を生むと考えられる。
 今回暫定的に設定したビジネスモデルを精査していき「物」のプロデュースだけではなく、その過程での「機能」なども視野にいれ、外部ブレーンや行政なども巻き込みながら観光、健康、教育などの新たな需要開拓も見込める事業領域と思われる。

□結論
 本研究では、転換期にある地方中小印刷業の今後あり方としてどうあるべきかを、山形市にある当社を地方中小印刷業の一般的なモデルケースとして研究してきた。
 当社として新たな可能性のある事業領域を3領域抽出した訳だか、地方都市という大きな産業がある訳でもない市場環境では、1つの領域領域に絞らないで、「地域特性」「新たな時流のサービス」「自社の強み分野」いった複数の事業領域をそれぞれ高めながら領域を広げていくことが、リスクヘッジにもなり、大きなシナジー効果が期待されると思われる。
 また、各企業の特殊性はあるかと思われるが、歴史的にはここ数十年の地方中小印刷業は、広告代理店や大手印刷業の下請け製造業としての位置づけになっていたと思われる。
 今後、顧客とのビジネスパートナーとしての請負型だけではなく「食・農産品コンサルティング」領域のように、市場をプロデュースし、新たな需要を生み出すビジネスマネジメントの役割も今後可能性があるということが、本研究から考察できた。


左から:1.研究フロー図/2.現在の広告・印刷業ポジショニングマップ/3.SWOTクロス分析表/4.3つの新規事業領域のポジショニング


左から:5.調査・検証方法/6.ビジネスモデル-「販売戦略支援サービス」/7.ビジネスモデル-「製薬会社MR向け販促支援サービス」/8.ビジネスモデル-「6次産業化サポート業務サービス」

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