プレミアム工芸品としての「玉虫塗」の新市場開発戦略のあり方についての考察 荒井裕子

 「玉虫塗」は仙台にしかないもので、その源流は第2次世界大戦以前の国立工芸指導所を嚆矢とする。日本の工芸品を輸出用にポヒュラー化するとともに東北、宮城の伝統工芸品のエッセンスを掬い上げようとして創出されたのが玉虫塗である。こうした出自を持つ玉虫塗は、その後時代の変化の中で翻弄されたが、その意味合いは未だに風化せず一定の輝きを持つ。市場的にはあとで分析するようにいくつかの課題を抱えているが、今日の〈プレミアム型消費〉の対象となりうる商品性と魅力を備えていると私は見る。
 「玉虫塗」は、下地に銀を蒔き上塗りを施すことにより、色を透過した光が銀面で反射し独特の輝きを持つという「技法」である。他の漆器には見られない魅力の要因であり、付加価値を持った漆塗である。(写真1、2、3)それを前面的に押し出し、違う市場を見出し戦略を考えるのが妥当かと思われる。とは言え、現実的には漆器市場にあまりにも近い位置にあるため、その差別化を図ることを、考えていかなければならない課題の一つである。
 玉虫塗の売上はギフト&ノベルティがほとんどを占めている。既存のユーザーはほぼ50代以上のマチュア層である。
 3.11の大地震が東北地方を襲った。企業の使命として被災地貢献の実効がなされた。震災後の状況で見えてきたものは、大口では近鉄百貨店を始めとし、購入されたアイテムはボールペンがトップであった。実用的であること、性別・年齢を問わない物として選ばれたのである。これは今後の商品開発をするうえでの参考となると推察される。
 “プレミアム”とはプラスアルファの対価を払っても手に入れたいと思わせる「特別な価値」、「プラスアルファの価値」と定義することが出来る。「見える価値」=「機能的価値」、「見えない価値」=「情緒的価値」と二つの価値を合わせもちあわせる上に、愛着やこだわりを誘導する「独自的価値(魅力))」これらが真のプレミアかどうかの分岐点である。
 現在の日本の市場には人々の「こだわり」を吸収するような独自性、高質性を有したプレミアム型の工芸品がいくつも存在する。「プレミアム工芸品」的価値を体現している例を分析し、他山の石としてみたい。
 [白鳳堂] 設立は、1974年。歴史のある業界の中では、新参者の部類に入る同社が一躍、世界にその名を轟かせるまでに成長したのは、「高品質製品の量産化」に成功したことにある。
 [能作] 今までのやり方では高岡の鋳物生産は衰退する。という危機感のもと新しいカテゴリーへの挑戦を始めた。それは鉛フリーで環境に優しく錫の持つ特性を最大限にいかそうと錫100%の商品に取り組んだ。「曲げられる金属」を売りにし、商品開発を始めた。錫100%の商品作りを可能にした伝統技術の生産鋳造法であった。

 玉虫塗を考える上で日本の先駆者だけではなく、その規模の大小はともかく欧米のスーパーブランドから学ぶべき点は多い。コルベール委員会に属するスーパーブランドのあり様に見られるような「伝統を生かす」姿勢から“プレミアム工芸品”の基本的輪郭が見えてきた。各々のブランド出自が根っことなりゆるぎないこだわりがあり、それに溺れることなく研鑽を積み上げている。だからいつの世にも新鮮である。成熟市場では一方で安くてもいいものを選ぶ嗜好があり、もう一方では多少高くてもこだわって高品質なものを選ぶ「こだわり消費」と使い分けていることが確実に進行している。市場への妥協からはプレミアム性は生まれない。ユーザーの期待に応えるということは不断の革新なくしてはあり得ない。
 人々の生活時間の中で玉虫塗が独自の存在感を獲得するには、新たな利用価値、利用シーンの提案が出来るものを投入することが求められよう。従来と違った利用感開拓、新たな嗜好性が生じるアイテムを見出す。これにより玉虫塗の新ドメインを開拓していくべきである。更に新しい顧客を取り込むにはデザイン的イノベーションが必要である。その際非顧客だった層にやみくもに媚びるのではなく、仙台の伝統や生活習慣をうまく取り入れることを考えたらどうだろうか。どういう形でデザイン的革新を遂げるかは、マネジメント上の課題となる。
 一つの試行として以前、仙台ガラス、煙筒ケース、チタングラスに玉虫塗を施した。(写真4、5、6)
 嗜好品とは各人の好みによって、その消費性が大きく左右される商品である。風味や味、摂取時の心の高揚感など味覚や嗅覚を楽しむために飲食される食品・飲料や喫煙具のことを指す。こうした嗜好品に対し、玉虫塗デザイン付加価値をもたらすことができるかを私の卒業制作として取り上げてみたい。その理由はありきたりの実用品では玉虫塗の付加価値を表出することが出来にくいからだ。逆に喫煙具のような嗜好的グッズだとその付加価値を極大化させることが可能かもしれないと思う。いわば「趣味的世界」のこだわりや快感を醸成することを促進する。嗜好品と一品性が融合化し、新たな感性の世界を開拓するなら、それは玉虫塗の新しい可能性の開発につながるだろう。


左から:1.壁掛け時計/2.USBメモリ/3.壷/4.仙台ガラス

左から:5.煙筒ケース/6.チタングラス

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