ユニバーサル時代の地方私立学校のマーケティング戦略 〜地域社会とともにあるマーケティングコミュニケーション手法の探求〜 菅原康弘

 本稿では、現在の教育市場についてマーケティングの視点からアプローチを試みる。マーケティングとは、組織体の目的を達成するためにターゲット市場と自発的な価値の交換を実現するために注意深く設計された全ての活動を指すが、特に、広告・販売・プロモーションを含めたマーケティングコミュニケーションの在り方について考察を深める。

 高等教育は大きな転換点を迎えている。入口となる学生募集では少子化と大学の収容定員の増加に伴い、学校間の競争は年々厳しくなっている。帰属収入の多くを授業料収入に依存する私立学校では経営存続に直結する最大の課題である。
 出口となる就職支援では、経済のグローバル化等の産業構造の変化、及び終身雇用に代表される日本型雇用慣行が崩壊するなど、この環境に沿った支援及び人材の育成が求められている。

 このような社会環境の下、各大学の教育システム及び発信しているメッセージは、実学的な教育を反映した内容にシフトしている。少子化により入学者の学力が低下、かつ就職氷河期の環境では、資格等によって職域が保護されている専門・技術職を志向させる教育が適合する。この場合、学校が発信する情報は、社会のニーズに沿って人材を育成するというメッセージ、つまり社会に対するフォロワーとしてのポジションである。
 しかし、地域社会の現況からすれば、社会に対するリーダーとして新たな産業を創造する人材を輩出することが求められている。とりわけ東日本大震災によって大きなパラダイムシフトが起きている東北の現状を鑑みるならば尚更である。また、人々の価値観も変容している。日本経済の低迷が続く中にあって、社会貢献意識の高まりや消費性向が低い年代の登場など、未曾有の震災を経験することでさらに加速している。所謂「ソーシャル化」である。
 この環境下を鑑みるならば、学校と学生のコミュニケーションの端緒となる学生募集の現場において、将来の学生となるターゲットの意識を高めるための情報発信、社会全般の便益のために社会行動を変えるソーシャルマーケティングの視点が必要ではないかと考える。

 また、P.コトラーが2010年に著した「マーケティング3.0」は、ステークホルダーとの協働・協創によって新たな価値の構築をめざすマーケティングを3.0としている。つまり、近年、急速に普及したソーシャルメディアは、単なるトレンドではなく今後マーケティング・コミュニケーションにおける主要なチャネルとして定着するだろうと述べている。

 一方、教育学者マーチン・トロウは、高等教育適齢人口に占める在籍比率から3つに類型化し、大学進学率が50%を超える状態をユニバーサル化と定義した。学生のタイプ・入学目的・卒業後の進路はさらに多様なものになり、生涯教育への対応など世代を問わず国民の人材育成を担う責務を負うとされる。また、マーケティングの視点からは、W・チャン・キムとレネ・モボルニュが著した「ブルーオーシャン戦略」がある。新たな新規需要を創造することで、競争が存在しない状況を作り出すという従来にない視点を与えている。教育市場に置き換えるならば、留学生及び社会人等の新たなターゲットである。

 東北地区の私立大学は、経営規模が小さく収容定員における欠員率も全国平均より高い。ここでは一大学が単独に取り組むのではなく、共に携えて行う視点が必要であろう。また、伝統的学生(高校生等)に加え、地域社会の非伝統的学生(社会人等)へアプローチし、地域に寄与する人材の育成を多面的に行う必要がある。
 今、地域が抱える様々な課題にアプローチし事業化するコミュニティビジネスや、地域住民の学びの場を創造する市民大学等の活動が注目されている。また、被災県である宮城県では、未曾有の震災からの復旧・復興を支援する数多くの官民が主体となった活動が行われている。これは、学生にとっては地域社会で実践的な活動を行う他に得がたい場として機能する。つまり、従来の単線的な産学連携の枠を超えて、官民各主体で行われている震災復興等の活動も教育の場と成り得るのであれば、各セクターとの協働を図り「学び」の地域ブランドを創造し得ることも視野に入る。これからの東北にある大学に求められる広報には、学生募集に留まらず地域力の向上に寄与しようという視点が必要であろう。
 ここでは、既存の大学視点からのアプローチではなく、地域住民一人ひとりの学び意識の向上に接点を持ち、サポートする視点を持つことが大切である。つまり、住民側からアプローチするボトムアップ型の視座を欠かしてはならない。
 この協働は、新たなコミュニケーション・チャネルとなり、非伝統型学生のアプローチとなり、また発信されるメッセージは、地元高校生には親和性が高く理解が深まりやすいものとなると同時に、他地域の高校生にとっても、その地域にしかない価値を感じることにより学校を選択する一つのファクターとして機能する。

 「学校のマーケティング」とは、まさに今日のマーケティングが抱える本質的テーマにどう遡及するかということに他ならない。今後もそのための具体的プログラムを、既存のチャネルに同期させながら実体化していくことを希求していきたい。

(2011年 卒業/修了研究・制作展 論文集より抜粋)

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